日銀の金融政策は今後、デフレからの脱却を重視する政治サイドとの関係で、どのような方向に押しやられていくのだろうか。民主党内に発足した「デフレから脱却し景気回復を目指す議員連盟」(デフレ脱却議員連盟)の動きを英経済紙も報じる中で、政府側のキーパーソンは、日銀金融政策決定会合への政府側出席者(内閣府・財務省)を2名とも統括する立場にある菅直人副総理・財務・経済財政相であろう。その菅副総理は、1%ないしそれを若干上回るインフレ率を自らが目標として意識しているという発言をこれまで何回か行ってきているが、4月20日には、従来よりも踏み込んだ発言をいくつも行った。
デフレ脱却議員連盟は4月14日、参院選マニフェストに向けた提言を取りまとめて、民主党に提出した。その中には、金融政策の指針となる物価等の適正水準について、政府が数値目標(消費者物価指数前年比2%超など)を決定して、それに基づき日銀が政策手段を独自に選択しながら数値目標の達成に努める、という項目がある。この提言にある2%という数字について、菅副総理は4月20日午前の閣議後会見で、「2%は飛び跳ねた目標ではない。1つの傾聴に値する意見だ」と述べて、理解を示した。ただし、マニフェストに反映するかしないかについては、「私の今の立場では申し上げることはできない」と述べるにとどめた。
さらに、20日午後の衆院財務金融委員会で菅副総理は、インフレ目標導入というテーマについて、次のように、これまでよりも前向きと受け止められる答弁を行った(質問者はインフレ目標論者として知られる自民党の山本幸三議員)。
「インフレターゲットという考え方について、いろいろな時期に魅力的な政策と感じてきたし、今でもその気持ちはある」
「プラス1(%)か、もう少し上のプラス2(%)程度を実質的な意味での目標とし、達成するまで日銀としても努力していただくし、政府としてもその達成に向けて努力を続ける姿勢をともに取ることが望ましい」
「目標達成まで、どのような手段を取り、継続するのかということがメッセージとしても重要だ」
これらの発言を、白川総裁をはじめとする日銀サイドは、どのような気持ちで受け止めたのだろうか。
菅副総理は日銀の独立性にも言及し、「われわれが言い過ぎてはいけない」と述べていたので、デフレ脱却議員連盟による提言が暗黙の前提としている日銀法改正というアイデアにまでは、少なくともこの日は踏み込まなかったと言える。だが、+1~2%程度を実質的なインフレ目標とした上で、つまりこれまで言われていた+1%ないし1%強よりも高い上昇率を目指して、「達成するまで日銀としても努力していただく」「目標達成まで、どのような手段を取り、継続するのかということがメッセージとしても重要だ」といった菅副総理の発言は、日銀はデフレから十分脱却するまで追加緩和の手を緩めてはならない、というプレッシャーをかける発言のように、日銀側には聞こえたのではなかろうか。