米国の2年物国債利回りは相変わらず1%を超える水準で推移しており、米連邦準備理事会(FRB)が年内といった早い段階で利上げに動くのではないかという警戒感が、市場ではなお根強いようである。しかし筆者は、このところ出てきている米国の経済統計のうち物価指標や住宅関連指標については、利上げという選択肢をしばらく封じ込める方向に作用しているのではないかと考えている。さらに、4月14日に上下両院合同経済委員会でバーナンキFRB議長が行った経済見通しについての議会証言は、その1週間前にダラスで行った講演のような「隠し味」的な表現こそ含まれていなかったものの、なぜ超低金利政策をこのまま「より長い期間」続けてもかまわないのかについて、米連邦公開市場委員会(FOMC)声明文に書かれていることをより具体的に説明するなど、注目すべき材料になった。直近の経済統計と突合すると、米国の早期利上げ説を強く否定するエビデンスが揃う形になる。
バーナンキ議長は今回の議会証言で、在庫補填がほぼ一巡し、財政面からの景気刺激が来年には減退していくと見込まれる中で、景気拡大がこのまま続くかどうかは民間最終需要が持続的に伸びていくかどうかに依存している、という認識を表明。その民間最終需要については、今後数四半期のモデレートな景気回復を促すにはおそらく十分だろうとしながらも、居住用・非居住用の双方で建設活動が弱いことや、多くの州・地方政府の財政状況が悪いことを含む、かなりの景気回復ペース抑制要因が引き続き存在すると説明した。さらに、景気回復のペースが(FOMCの予想通り)モデレートなものにとどまるとすれば、過去2年間に失われた850万の雇用を回復するのにはかなり多くの時間(a significant amount of time)が必要になるだろうという厳しい見通しを示し、同時に、失業者の44%を超える部分が半年以上も失業したままであることに強い懸念を表明した。
議会に対するメッセージで雇用情勢についての認識を議長がしっかり説明したのは、言うまでもなく、FRBという中央銀行が物価安定と同時に最大雇用についても法律上の責務を課せられており、その実行状況を監視するのが国民の代表者で構成されている議会だからである。国内で最近出版されたFRB関連の好著に、デイビッド・ウェッセル著『バーナンキは正しかったか? FRBの真相』(朝日新聞出版)がある。バーナンキ氏のFRB議長指名承認公聴会に関する部分に、次のような記述がある。
「FRBは、他のほとんどの中央銀行と異なり、1977年に議会から『雇用の最大化』と『物価の安定』の両方をめざすことを義務づけられている。バーナンキの指名承認公聴会で、民主党議員はFRBの最優先課題を一方的に変えようとすることは許されないと彼に釘を刺した。この警告に対して、バーナンキは前任者のグリーンスパンと同じく、物価の安定こそ雇用と経済成長を最大化する方法であると応じた」
話を戻すと、米国の早期利上げ観測の是非を考える上でさらに重要なのは、超低金利政策の「時間軸」と物価動向の関連で、バーナンキ議長が説明した部分である。議会証言のうち質疑応答で、議長は次のように説明した。FOMC声明文の記述よりも、やや具体的な内容になっている。
「非常に低い、極端に低い金利がより長い期間必要になると現時点で予想していることを、FOMCは明確に示した」
「しかしながら、この見通しは3つの条件が備わっていることが前提だ。(1)非常に低い資源利用率、すなわち高い失業率と低い設備稼働率、(2)抑制されたインフレ率のトレンド、すなわち低いインフレ率、(3)安定したインフレ期待。これらの状況が変化し、われわれが見通しの変更を予期する場合には、われわれは当然それに対応するつもりだ」
そして、証言原稿本体にある物価動向についての記述を、上記(2)と(3)に沿って整理すると、以下のようになる。
(2)「最近のデータは、消費者物価上昇率が引き続き抑制されていることを示している。2月までの3カ月間、PCE(個人消費支出)デフレーターはエネルギー価格のさらなる急上昇にもかかわらず、年率1.25%の上昇。食料とエネルギーを除いたコアのインフレ率は年率0.5%に鈍化した。インフレ率の鈍化は広い範囲にわたっており、大半の財とサービスの類型に影響している。ただし、原油を含むいくつかのグローバルに取引されている商品と原材料は主要な例外だ」