財務官僚や日銀OBが大学教授やシンクタンクの理事長に転身するケースが目立っている。民主党政権が国家公務員の「天下り」禁止を打ち出し、これまで指定席だった政府系の金融機関や団体役員への道が閉ざされているためだ。天下りがなくなっても第2の奉公先を易々と見つけることができるトップエリートたちは、厳しい雇用情勢の中でもがき苦しむ若者たちのことを知っているのだろうか。
日銀OBは民間シンクタンクへ
3月25日午前10時30分の東京・大手町。約束の時間きっかりに記者会見の場に現れた稲葉延雄氏は、面映ゆそうだった。
コピー機・プリンター大手のリコーが4月1日付で社内に開設した「リコー経済社会研究所」の、初代所長に就任するという。同席した近藤史朗社長は「この研究所は経済・社会の構造変化を企業経営に的確に反映させるために設置した。シンクタンク機能と経営陣へのアドバイザリー機能を有する」と説明した。
研究分野は経済、環境・資源・エネルギー、社会構造、産業・経済の4分野で、四半期ごとに社内の戦略会議で報告するほか、経営陣と毎月情報交換を行う。発足時の人員は20人で、社外参与には中村邦夫・パナソニック会長、槍田松瑩・三井物産会長と伊丹敬之・東京理科大教授が加わる。
2008年5に日銀理事を退任した稲葉氏は、リコーの特別顧問に就任。経済同友会の代表幹事を務める桜井正光会長の財界活動を実体経済や金融の分析を通じて支援するほか、リコーの国内外の経営戦略立案にも助言をしてきた。今度は社内シンクタンクのトップとして、より重責を担うことになる。
近藤社長は「経営陣には分からないアドバイスをいただきたい」と期待感を示し、稲葉氏も「リコーの成長が社会の持続的成長にも貢献できるよう、価値ある研究成果の発信に努めたい」と力を込めた。
これと同じような民間シンクタンクがもうひとつある。キヤノンが総額10億円を拠出して2008年12月に設立した「一般財団法人キヤノングローバル戦略研究所」だ。景気後退や環境、資源問題など世界規模の問題が山積する中、グローバルな視点で調査や研究を行うシンクタンクの設立が重要として設立。理事長には福井俊彦・前日本銀行総裁を据えた。
財団の評議員には、日本経団連会長でもある御手洗冨士夫キヤノン会長、三菱東京UFJ銀行の三木繁光相談役、住友商事の宮原賢次相談役、第一生命保険の森田富治郎会長と財界人が名を連ねている。