参院選前に策定される可能性が取り沙汰される追加経済対策の規模・内容を含め、財政政策の今後を大きく左右する立場にある菅直人副総理・財務・経済財政相が12日、日本外国特派員協会で講演した。市場で材料視されることはなかったようだが、注目すべき内容が含まれていたと筆者は考えている。以下のような発言があったと報じられている。
「政府内ではある程度の財政出動が必要だという認識は一致しているが、財源を国債発行にするのか、税制改正で確保するのかは議論がある」
「(日本経済の成長低迷とデフレ状況の原因について)土地を中心としたバブル(の発生)と崩壊が尾を引いている」
「第2のケインズ革命を起こすことで、この状況を打開できる」
「お金を循環させることがポイント」
「税による国民の分担をお願いし、雇用・仕事を創出して、そこからさらに税収が増える。日本にあるお金を循環させることで、日本の回復は十分可能だ」
「場合によっては、増税をしても景気は悪くならず、逆に使い道を間違わなければ景気は良くなるということを部下に検証させている」
政府内で認識が一致していると菅副総理が言及した「財政出動」は、中長期的な社会保障関連の必要経費を、ある程度念頭に置いたものだろう。しかし、4月9日の政府・日銀定期協議で鳩山由紀夫首相が「政府としては、財政的にできる限りやる。財政再建もあるが、財政的にデフレ脱却に向けて努力する」と発言し、この場に菅副総理も同席していたことを考えると、追加経済対策を含む当面の景気刺激についても含まれていると考えられる。その証拠に、「財源を国債発行にするのか、税制改正で確保するのか」という議論の一端を担っているのは、国債増発と日銀引き受けを主張しながら景気刺激目的での追加の財政出動論を展開している、国民新党代表の亀井静香金融・郵政改革担当相である。
実は、4月9日時点で筆者は、菅副総理と亀井金融・郵政改革担当相の発言内容が似通ってきたのではないかという思いを抱くようになっていた。この日の衆院財務金融委員会で菅副総理は、「お金の循環が悪い。物を買ったり投資をするよりもお金を持っていたいという状況。成長分野にお金をどんどん投じていくことも考えていきたい」と発言。一方、亀井金融・郵政改革担当相は、「いくら日銀が資金を市場に供給しても資金需要がない異常な状況。産業に資金が回るかもしれないが、政府の支出そのものによって政府自らが需要を創設しないとスパイラルと言ってもいいデフレから脱却することはできない」と発言した。亀井氏はさらに、「菅大臣との仲を裂くような(周囲の)発言もあるが、話していても方向は一致している」とも、苦笑いしながら述べていたという(4月13日 フジサンケイビジネスアイ)。
菅副総理が12日の講演で述べた、政府による需要創出論(明らかに一種の財政出動論)は、内閣府参与に2月26日付で就任した小野善康大阪大学教授の影響を強く受けたものとみられる。