2010年度の債券相場については、10年物国債利回りで1.2~1.5%前後という、2009年度に形成したレンジを軸に動くだろうという点で、市場参加者の間におおまかなコンセンサスがある。これには、日本が陥っている慢性的なデフレ状況を背景に、日銀の利上げのタイミングは2011年度下期以降にずれ込むだろうという見方が市場で支配的であることが、強く影響している。イールドカーブの根元部分(魚の「鯛」に例えれば頭の部分)が強く押さえ込まれているため、一種の「時間軸」効果から、市場の金利観にはブレが出にくい。5年物国債利回りに代表される中短期ゾーンの金利が、水準を切り下げておおむね安定的に推移しているのは、このためである。

 その一方で、「鯛」の尾の部分、長期・超長期ゾーンの金利は、下げ渋りの様相を呈するようになってきた。鳩山内閣による2010年度予算編成を経て、財政規律や将来の国債消化についての不安心理が、市場で強まったためである。以前のように「尾の部分は時間の経過とともに下がる」とは、筆者としても言いにくい状況である。子ども手当満額支給の財源問題などが焦点となる2011年度予算編成がヤマ場を迎える今秋については、「悪い金利上昇」が10年債利回りで1.6%台に乗せる水準まで一時的に進むことへの警戒感を抱かざるを得ない。また、例年6月に長期金利が上昇しやすいという経験則もある。大枠としては2010年度債券相場のボックス圏を見込みつつも、時期によっての水準の振れは、自ずと出てくる。

 さらに、足元で広がっている米国経済楽観論はいつまで持続するのか、為替の円安はどこまで続くのか(対ドルや対ユーロでは円安の限界がすでに見えている)、米国の早期利上げ説はどのようなきっかけ・タイミングで否定されるのか(米2年債利回りが早期利上げを織り込み1.18%まで5日に上昇したことには大きな違和感あり)といった諸点が注目される。

図表1:4-6月期に注目される債券相場関連イベント等のバランス
    債券買い材料 債券売り材料
4月 国内 ○新年度入りに伴う債券買い需要の顕在化(貸出減少・預金増加で、銀行等は手元資金潤沢)
○4月30日会合で日銀が追加緩和に動く可能性(さらなる新型オペ拡充の可能性を指摘する報道)
●米景気楽観論が広がっており、株高・円安進行(リスク許容度増大で円キャリー取引も部分復活)
海外 ── ──
5月 国内 ── ●参院選前の追加経済対策への警戒感(だが、予備費等の範囲で対応なら国債増発なし)
海外 ○米住宅減税4月末終了の影響が徐々に顕在化(駆け込み需要の反動を含め、住宅指標は悪化へ) ●英総選挙(6日)で「ソブリンリスク」に注目集まる(保守党単独政権でないと、英国債に売り圧力)
●上海万博が開幕、中国経済動向に注目集まる(中国の高成長報道が増え、景気楽観論を補強)
6月 国内 政府が「中期財政フレーム」「財政運営戦略」を発表するほか、「成長戦略」の工程表を含む具体策とりまとめが行われる(→財政規律を市場に認識させることができれば債券買い材料、失望なら売り材料)
○政府の財政運営戦略などと連動した日銀の動向(市場では長期国債買い入れ上積み観測が根強い)
○鉱工業生産の4-6月期鈍化が明確になる可能性(いずれにせよ過度の景気楽観論の反動が到来)
●6月に長期金利が上昇しやすいアノマリー(昨年も10年債利回りピークは6月に記録した)
●参院選(7月投開票濃厚)の結果に不透明感(連立政権継続なら財政政策には拡張バイアス)
海外 ○FRB副議長にハト派のイエレン氏の就任有力(コアインフレ下振れを警戒。米超低金利継続へ) ──

出所:みずほ証券金融市場調査部作成