言い古された格言だが、子供は親の鏡である。子供たちがいつまでも一人前にならないというなら、その理由はただ1つしかない。つまり、親が一人前でないから、子供も一人前になれないのである。

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 宮本が生家から旅立つ時に、彼の父はいくつかの忠言をし、忘れぬようにと紙に書かせた。全部で10ある「父のことば」を全て書き写したいところだが、今回のコラムの趣旨に合わせて6番から10番までを記しておく。

 (6)私はおまえを思うように勉強させてやることができない。だからおまえには何も注文しない。すきなようにやってくれ。しかし身体は大切にせよ。30歳まではおまえを勘当したつもりでいる。しかし30すぎたら親のあることを思い出せ。

 (7)ただし病気になったり、自分で解決のつかないようなことがあったら、郷里へ戻ってこい、親はいつでも待っている。

 (8)これから先は子が親に孝行する時代ではない。親が子に孝行する時代だ。そうしないと世の中はよくならぬ。

 (9)自分でよいと思ったことはやってみよ、それで失敗したからといって、親は責めはしない。

 (10)人の見のこしたものを見るようにせよ。その中にいつも大事なものがあるはずだ。あせることはない。自分の選んだ道をしっかり歩いていくことだ。

 ここに表明されているのは、息子に対する真性の愛情と信頼である。そして、未知の世界を彷徨い、様々な人々と出会い、時には困難に遭遇するに違いない息子にとっての故郷をなんとしてでも保ってみせるとの決意を述べた言葉でもある。

 現代の若者が旅に出ないとしたら、それは高度経済成長とバブル経済の恩恵によって海外旅行を満喫する年長世代の生き方に、彼らがなんの魅力も可能性も感じないからだろう。

 それはそれで健全な感覚である。しかし、他人を嘲笑っているだけではなにも変わってゆかない。

 息子たちがどんな旅に身を投じるのか。その時が遠くないのだと思うと、胸が締め付けられて、鼓動が早くなる。私もかつて両親をこんなに心配させたのかと思うと、ひたすら申し訳ない気持ちになる。どうか息子たちの旅が幸運でありますように。