ブータンのワンチュク国王とペマ王妃の訪日は大きな話題になった。ワンチュク国王の優しげな風貌と共に、ペマ王妃の美貌が人気の秘密だろう。雨の金閣寺での報道写真撮影の際に住職に傘をさしかけるなどの細やかな心遣いも、日本人の琴線に触れたようだ。

 旅行社にブータン旅行の問い合わせが殺到していると言う。王室外交の目的は友好を育み自国のイメージを高めることだから、訪日は大成功だったと言って良い。

 ブータンが「GNH」(国民総福祉量)の増大を国是に掲げていることから、マスコミではブータンを「幸福の国」とする報道が目立った。

 しかし、現在、そのブータンも悩み多き国に変わりつつある。GNHを国是に掲げても、国民の多くが幸せと感じる国を維持することは難しい。

 今回は、アジアで普遍的に起きていることが、ブータンでも生じていることを述べたい。

 それは経済が発展し始めると、土地価格が上昇することである。この現象は世界中で見られるが、コメを作っていた関係で人口密度が高いアジアでは特にそれが著しい。

首都ティンプーで土地価格が高騰

 ブータンは九州ほどの国土に人口が約70万人しか住んでいない。しかし、平地が少ないことから平地の人口密度は高い。また、経済発展に伴って首都ティンプーへの人口集中が進んでおり、首都の人口密度は急速に高まっている。

 そのティンプーで貧富の格差が広がっている。原因は土地である。

 経済成長著しい首都では、土地はいくらあっても足りない。そのために、土地の価格は天井知らずとなり、それは高度成長期の東京を彷彿とさせる。

 もともと棚田や段々畑が広がる土地であったために、広い農地を所有している人は少ない。農家1戸当たりの農地面積は1ヘクタール以下だろう。た だ、1ヘクタール程度の農地でもホテル、ショッピングモール、マンションの建設には十分だ。首都周辺に農地を持っているものは土地のオーナーとして、大きな富を築くようになった。

 その一方で、地方からティンプーへ出てきた者は、高額の家賃を支払わなければ首都で生きてゆくことができない。

 貧富の格差は、いやおうなくブータンに生まれ始めている。ブータンは国民の多くが幸せを感じている「おとぎ話の国」から、普通の国になりつつある。