11月に、ある大手M新聞社が出版している経済週刊誌から、「日本のテレビ産業壊滅」についての記事執筆を依頼された。筆者は、まず2004年および2007年にすでに壊滅の兆候があったことを指摘した。そして、その兆候から窺える根源的な問題が今日に至って何も解決されていないから、壊滅したのだと結論した。
しかし、編集委員からは「話が古すぎる」と苦言を呈され、すったもんだのやり取りがあった。筆者としては、テレビ産業界に巣食う根源的な病理をえぐったわけで、それにいちゃもんをつけられるとは思わなかった。
話が新しいか古いかなんて、全く本質的な問題ではない。というより、2004年にすでに壊滅の兆候があったことは、今、考えると大きな発見であり、それこそ記事に取り上げるべき大問題であるように思う。
しかし、編集委員は頑なに書き直しを要求した。結局、筆者は、全てを書き直す時間も気力も体力も喪失したため、こちらから申し出て「ボツ」にしていただいた。非常に後味の悪い結果だった。
ボツにした原稿を改めて読み直すと、テレビ産業に巣食っている根源的な問題は、この連載で取り上げている日本半導体産業の過剰品質病に通じるものがある。
そこで、本稿で、ボツになった原稿全文を掲載したい。そして、読者諸賢に、「話が古いから読むに値しないか否か」の判断を委ねたいと思う。では、最後にまたお会いしましょう。
「こんなはずじゃなかった」という勘違い
サッカー元日本代表の三浦知良氏(カズ)が、日経新聞の連載コラムで面白いことを書いている。Jリーグ終盤の今、予想に反して低迷するチームからは、「こんなはずじゃなかった、僕らはこんな下位にいるチームじゃない、僕らの実力はこんなもんじゃない」という声が聞かれるという。それに対して、カズは、「違う、それが実力なんだ、その厳しい現実を受け入れ、どうしたら実力を上げられるかを考えるべきだ」と書いている。
カズの言葉を聞かせたい産業界がある。それは、日本の電機産業、特にテレビ産業界である。かつてテレビは、日本電機産業の輝かしい成功の象徴だった。ところが今や、パナソニックは4000億円を超える赤字を計上し、テレビ事業の縮小を発表。ソニーは、7年連続で累計5000億円の赤字を計上し、サムスンとの合弁を解消、事業を縮小すると発表。シャープは辛うじて黒字を確保したが、“亀山ブランド”と持てはやされたテレビ工場を中小型パネル用に転換した。
日本のテレビメーカーにかつての面影はまったくない。パナソニックも、ソニーも、シャープも、「こんなはずじゃなかった」と思っているのではないか。しかし、カズが言う通り、残念だが、これが日本の実力なのである。