「本流トヨタ方式の土台にある哲学」について、「(その1)人間性尊重」「(その2)諸行無常」「(その3)共存共栄」「(その4)現地現物」という4項目に分けて説明しています。

 企業を取り巻く利害関係者との関係を表す「(その3)共存共栄」は、本流トヨタ方式の根幹とも言える考え方であり、行動規範でもあります。今回も引き続き、企業として第1優先に取り組むべきお客様との関係についてお話ししたいと思います。

 かつて、浪曲演歌歌手、三波春夫さんの「お客様は神様です」という言葉が一世を風靡したことがあります。実は「本流トヨタ方式」におけるお客様との関係を一口で言い表せば、まさに「お客様は神様」となります。以下、この言葉を使ってお客様との関係を説明していきましょう。

<1> あなたが扱っている商品のお客様は「神様」と認識すべし

 商品の取引は「B2C(Business to Customer:一般消費者向けのビジネス)」と「B2B(Business to Business:企業同士の取引)」に大別されます。

 最初に、一般的なB2Cについてお話ししましょう。この場合の一般消費者とは、どこの誰かは分からないけれど、自分の扱った商品を購入し、使ってくださる不特定多数の人ということになります。

 本流トヨタ方式では、お客様に満足していただくことをもって「お客様第一主義」と称して、一番大切にしようとしています。

 しかし、どこの誰とも分からない不特定多数のお客様に、どうすれば満足してもらえるのでしょうか。

 このように問い詰めていくと、不特定多数のお客様というのは「神様」と同じだという考えに行き当たります。つまり、神様にお供えするのと同じ心境になって自分自身の内面と向き合い、真摯な心でお客様に向かいなさいということなのです。

 もしも不特定多数のお客様から一旦嫌われたら、言い訳も、泣き落としも、鼻薬も効かない状態になります。まさに天罰を受けるのです。「神は細部に宿る」と言いますから、常に神の声に耳を傾け、謙虚に反省し、精進を積まなければなりません。

 宗教学者からお叱りを受けるかもしれませんが、このように「お客様は神様」という概念を持ってくると、説明がしやすくなるのです。

 次に、B2Bについて考えてみましょう。

 この場合のお客様は、特定企業の購買担当部署になりますので、その少数意見を聞けばよい、ということになります。特定少数が相手なので、言い訳も、泣き落としも、鼻薬も有効かもしれません。しかし、その考えは正しいでしょうか。

 約10年前、日本でもBSE(牛海綿状脳症:いわゆる「狂牛病」)が発生しました。当時、飼料メーカーは、農水省の許可を受けて牛用の配合飼料を作り、畜産農家に販売していました。典型的なB2B取引でしたが、BSEの発生をきっかけに、ある日から牛肉がぱたりと売れなくなってしまいました。当時の農水大臣が牛肉を食べてみせて安全性をPRしましたが、効果がなく、その後数年間、牛肉の売り上げが激減しました。