日本では電力中央研究所の天野治氏がEPRの試算に積極的に取り組んでおり、1つの評価例として図1のような結果を公表している。EPR値が高いのは原子力発電であり、単純に考えると「原発を推進すべき」との結論になりかねないが、筆者の立場は違う。

柏崎市、柏崎刈羽原発に緊急使用停止命令

2007年7月の新潟中越沖地震で被災した東京電力の柏崎刈羽原発付近。同原発は2年近く運転停止を余儀なくされた〔AFPBB News

柏崎刈羽原発が運転再開、中越沖地震から約2年ぶり

廃棄物処理コスト、政治コスト・・・。原発も魔法の解決法ではない〔AFPBB News

 この試算にはいくつかの仮定が含まれている。原発の最大の問題は、放射性廃棄物の処理方法だ。ここでは、単純に地下300メートルに長期保管(処分)することを想定し、必要な鉄やコンクリートの量のみを考慮して計算した結果に過ぎない。「埋めて終わり」という極めて簡単な想定だ。

 地震大国日本で本当にこの方法でよいのか──という点は議論があるところだ。もし違った廃棄方法を取れば、当然EPR値は変わってくる。数字はあくまでも特定の仮定に基づいた試算結果であり、目安に過ぎない。

 さらに、原発については政治的コストも勘案する必要がある。科学合理性はともかく、実際に地中に処分するとなれば、処分地の選定にあたっては越えなくてはならない政治的ハードルは極めて高い。現に、原発が立地する自治体には、長年にわたって莫大な補助金が支払われている。

 こうしたEPR評価の数字はむしろ、原子力発電であっても「魔法の解決策」ではないという点を可視化して見せたという点で評価されるべきであろう。日本の場合、ウランの濃縮方法に高エネルギー効率的な遠心分離法を半分程度取り入れているために16.9と比較的高い数字が示されているが、非効率なガス拡散法による濃縮を行っているアメリカの原発に対しては、4程度という再生可能エネルギー以下のEPR評価を下している研究者もいる。

自然エネルギーを利用するには、莫大なエネルギーが必要

 期待される再生可能エネルギーであるが、残念ながらその数値は概して低い。天野氏の試算によると、水力発電の場合、ダム建設に入力エネルギーの48%、コンクリートなどの素材に26%、運用や補修に23%が使われている。

 地熱発電の場合、素材に必要なエネルギーは全体の20%だが、運用に72%が使われる。風力発電の場合、素材に48%、運用や補修に36%、製造に10%のエネルギーが使われる。太陽光発電でも、パーツの製造に61%、モジュールの組み立てに23%、据え付ける架台に8%のエネルギーが使われる計算だ。