米国は、つくづく育児と仕事の両立が難しい国だと感じる。特に都市部に住む働く母親たちは、保育園やベビーシッターの費用の高額さと、職場のワーキングマザーに対する理解のなさに疲れ果て、結局、仕事を辞めてしまうことが多い。
今年1月、大手シンクタンクCenter for American ProgressとNPOのCenter for WorkLife Lawが共同で、米国において家庭生活と仕事の両立がいかに困難かを調査した報告書を発表した。
およそ100ページの報告書には、全米の親の悲鳴が詰まっている。親だけではない。育児と仕事を両立させようとする自分の子供たちをサポートする祖父母の嘆きも加わっている。
まず、米国では有給の育児休暇が法律で制定されていない。そのため、多くの職場は無給の育児休暇しか認めていない。しかも上限3カ月というのが相場だ。職場復帰しても、長時間労働が求められ、拒否すれば昇進に響くだけでなく、懲罰を受けたり、解雇に至るケースも少なくない。
子供が病気になったり、怪我した場合などの緊急事態で職場を早退しても、懲罰や解雇の対象になる。労働者の中には、やむを得ない家庭の事情で一時的に働けなくなる人がいる。そういう労働者を守る法律が、米国には存在しない。しかも、安価で信頼できる保育園もベビーシッターもないうえに、政府や雇い主の援助がないに等しい。
報告書は、子供を持つ親を「低所得者層」「中流層」「富裕層」の3つのクラスに分け、それぞれの親が直面する子育てとキャリアの両立の苦しみを具体的に例証している。
収入が少なくても多くても、両親が揃っていてもシングルペアレントでも、誰もが多くの犠牲を払って子育てをしている。その現状を、この報告書を元に紹介したい。
[低所得者層] ~シングルマザー、エミリーの場合
<9歳の女の子と7歳の男の子を持つエミリーは、離婚経験のあるシングルマザーだ。フルタイムで働くエミリーには、放課後に子供たちを預ける施設に払う金も、人を雇う余裕もない。
そこで彼女と子供の1週間はこんなスケジュールになっている。
月曜日。同じ学校に子供を通わせている近所の人が、自分の子供と一緒にエミリーの子供たちを迎えに行き、そのまま近くの児童館に連れて行く。子供たちは5時までそこで遊び、再び同じ近所の人が迎えにきて、家に送り届ける。エミリーが帰宅する7時半まで、子供たちは2人で待っている。