「本流トヨタ方式の土台にある哲学」について、「(その1)人間性尊重」「(その2)諸行無常」「(その3)共存共栄」「(その4)現地現物」という4項目に分けて説明しています。

 前回からは「(その3)共存共栄」を取り上げ、企業と、その企業を取り巻く利害関係者との関係についてお話ししています。

 「共存共栄」は本流トヨタ方式における根幹を成す考え方であり、行動規範でもあります。じっくり時間をかけて、その内容を詳しく説明していきたいと思います。

 前回は、自然界における生物たちの「共存共栄」の実態を人間社会に重ねながらお話ししました。今回からしばらくの間、企業とお客様との関係についてお話をしていきます。

「共存共栄」は複雑な環境を生き抜くキーワード

 「共存共栄」と同じような意味を持つ言葉として、「三方よし」が古くから伝えられています。この言葉は、遠く鎌倉時代から全国を行商して回り、多くの成功者を出したとして有名な近江商人の商いの理念「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よし」からきているといいます。

 「商い」とは「アキナイ」であり、どんなに利の少ない取引でも「飽きない」でやり続ければ福が来る、というのが商人の心得の第一歩とされています。

 長い年月の間、数多くの近江商人たちが、見知らぬ他国で「商い」をすることの厳しさ、信用してもらうことの大切さを、様々な困難の中から感じ取り、数多くの体験から導き出された「三方よし」には、実践されてきた歴史と重みがあります。

 以前、「トヨタ再興の祖」とされている石田退三氏についてお話ししましたが、石田氏と親交の深かったパナソニックの社祖、松下幸之助氏は「共存共栄」の大切さを熱心に説いていたと聞きます。

 世界規模のものづくり企業を取り巻く環境は実に複雑です。市場を見れば、先進国から途上国、途上の緒に就いたばかりの国まであります。宗教も様々ですし、生活様式も違います。最近では、エコロジーやサステナビリティの問題も絡んできます。このような複雑な環境との関わり合いを考えるには、やはり「共存共栄」という言葉が相応しいと言わざるを得ません。

 本流トヨタ方式において「共存共栄」の裏には、石田退三氏が言った「自分の城は自分で守れ」という考え方や、豊田英二氏(元トヨタ自動車工業社長、トヨタ自動車会長)がゼネラル・モーターズ(GM)と合弁会社のNUMMIを作る時に言った「GMとは競争と協調の関係」などの言葉があります。経営基盤がしっかりした自立した会社になった上で、周りと「共存共栄」していくことが大切なのです。

 「企業は社会の公器である」といいますが、社会のために貢献し続けるところに存在価値があります。社会に害をなしたり、社会に負担をかけたりするようになった時には、私企業は社会から退場しなければなりません。ここが、基本的人権を持った個人とは根本的に違うところなのです。