分かりやすいメッセージを発する目的で、中央銀行の政策担当者らが、たとえ話やことわざを用いることがある。理解するには専門知識が必要なのではないかと、国民が距離を置いてしまいがちな経済・金融の問題について、理解しやすい言い回しを用いながら説明責任を果たしていくのは、どの国の政策担当者にとっても大事なことであろう。

 日本・米国・ユーロ圏について、最近出てきた分かりやすいメッセージの実例を、以下でいくつか引用してみよう。それらを読むことで、各々の経済が直面している難題が浮き彫りになってくる。

日本

◆白川方明日銀総裁(2010年1月29日内外情勢調査会で講演)

「物価は、しばしば経済の体温に例えられます。体温だけを人為的に長期間にわたって引き上げることは可能ではありません。基調的に体温が上がるためには、それ相応の体質改善や、場合によっては、適切な治療も必要です。同じことは、デフレ問題への対応についても言えます」

 日本経済に内在している需要と供給のバランスが「体質改善」や「治療」を経て改善することのないまま、日銀による国債引き受けという副作用の多い手段さえ選択肢に掲げながら、物価だけを無理やり持ち上げようとする類の政策論を、「体温だけを人為的に引き上げる」ような話だとして、白川総裁は強く否定した。

◆山口広秀日銀副総裁(2010年2月24日鹿児島県金融経済懇談会で講演)

「物価は、やや比喩的にいえば、経済の体温にあたります。これに従いますと、デフレ、つまり経済の体温が下がった状態にあるのは、日本経済の基礎体力が低下していることの顕われと言えます。ただし、デフレについては、こうした結果という面だけではなく、これが起点となって景気の悪化をもたらしうる点にも注意が必要です」

「先ほどの体温の比喩に戻りますと、体調不良によって体温が低下するだけでなく、逆に体温の低下が病状を悪化させるリスクも意識しているということです。このようなリスクが存在するからこそ、デフレの克服は一層重要になります」

 白川総裁の盟友とされる山口副総裁らしく、物価を体温に例えたところまでは総裁と同じ。ただし、たとえ話の内容では、もう少し踏み込んだ。デフレとは経済の「体温の低下」であり、それは「基礎体力の低下」「体調不良」を示す動きだとした山口副総裁は、「逆に体温の低下が病状を悪化させるリスク」、すなわちデフレスパイラルのリスクにも注意が必要だ、と述べた。純粋に医学的に考えるとこのくだりには疑問があるようにも思えるのだが、伝えようとしていることは容易に理解できる。