米国のオバマ政権が、安全保障面での「アジア最重視」を明確に語るようになった。アジア・太平洋の再重視だともいう。イラクやアフガニスタンを重点とした米軍の戦力を、東アジアへ回す方針だというのだ。
中国の軍拡を睨んでの抑止戦略が最大の主眼だとされる。この変化自体は日本にとっては歓迎すべき動きだが、実際の米軍戦力のアジアへのシフトが、公表通りの実効を伴なって進められるかどうか、いくつかの深刻な懸念がなお残る。
米軍はイラク、アフガニスタンからアジア・太平洋へシフト
米軍のアジアシフトはオバマ政権の2人の重要閣僚によってほぼ同時に明らかにされた。レオン・パネッタ国防長官とヒラリー・クリントン国務長官である。
アジア歴訪中のパネッタ長官は10月24日の日本滞在中にも、「米国はアジア・太平洋での軍事プレゼンスを強化する」と言明した。イラクの米軍の駐留が今年いっぱいで終わり、アフガニスタンでも米軍の規模が着実に縮小するにつれ、米軍の世界的な戦略が「転換点」を迎え、その重点はアジアへと移るのだという。
クリントン長官も大手外交雑誌に最近、発表した「米国の太平洋の世紀」と題する政策論文で、「米国のこれまで10年のイラクとアフガニスタンでの軍事努力は、その重点を移し、今後の少なくとも10年はアジア・太平洋にシフトする」と明言した。
アジアシフトの最大の理由はどう見ても中国である。
クリントン長官はシフトの原因について、その論文では外交や経済、戦略の各面でのアジア・太平洋への包括的な関与が必要になったと述べているが、同時に中国に最大の記述を費やしていた。しかも「中国の軍事力の近代化と拡大」や「中国の軍事的意図の不透明さ」という言葉を前面に出していた。
そして、対中関与の重要性をうたいながらも、「公海の航行の自由」を再三、強調して、中国の南シナ海などでの傍若無人の行動に警告を発していた。
パネッタ長官も、米国がこれからアジア、太平洋戦略を重視する背景として、「中国が軍事力の近代化を急速に進め、しかも透明性を欠き、東シナ海や南シナ海で威嚇的な行動を取っている」と具体的に述べていた。