日本航空は、あらかじめ利害関係者と債権カットの合意を取り付けた上で会社更生法の適用を申請する事前調整(プリパッケージ)型法的整理という新たな企業再生手法を活用し、再建に乗りだした。裁判所の強力な権限を使いながら複雑な債権債務関係を一掃し、透明かつ短期間で財務リストラを完了できるという触れ込みだ。
需要低迷に柔軟に適応できない硬直的な事業構造や組織体制で窮地に陥った日航は、「低迷する日本経済の縮図」(稲盛和夫・次期日航会長=京セラ名誉会長)。従来の法的整理や私的整理ではない「第3の道」を試す日航は、「日本株式会社」再生の先駆けとなるのだろうか。
負債は過去最大2.3兆円、法的整理は「最後のチャンス」
2010年1月19日、長年にわたり経営難に陥っていた日本航空は子会社2社とともに東京地裁に会社更生法の適用を申請、事実上倒産した。負債総額は事業会社として過去最大の2.3兆円。日航株は100%減資で上場廃止が決定、西松遥社長は引責辞任した。記者会見した西松氏は法的整理について「政府、株主、金融機関、国民から頂いた最後のチャンス」と訴え、悲壮な表情で理解を求めた。
一方、官民共同出資で設立された企業再生支援機構は3000億円の出資に加え、日航のメインバンク日本政策投資銀行とともに運転資金に充当できる6000億円のつなぎ融資枠を設定。国を挙げて日航機の運航継続に万全を期すとともに、3年間かけて日航を抜本的に再生させる。
倒産による企業価値の低下を恐れて私的整理を主張する民間銀行団に対し、機構が法的整理を通告したのは2009年12月下旬。機構の意思決定機関である企業再生支援委員会の瀬戸英雄委員長は公的資金を投じる以上、「密室ではなく裁判所を通じた公正・公平な手続きは当然だ」と説明。また日航の経営を窮地に追い込んできた「過去のしがらみからの解放」も可能になるとしている。
日航のケースが従来の法的整理と異なるのは、会社更生法適用を申請する前に銀行による債権放棄や日航OBに対する年金給付減額といった大口債権の調整が済んでいることだ。日航の管財人を務める片山英二弁護士によれば、こうした事前調整型の法的整理は日本で初めての事例になるという。
これまで経営に行き詰まった会社を再建する道は大きく分けて2つしかなかった。1つは、銀行団主導の債権放棄や債務の株式化(デット・エクイティ・スワップ)を柱とする私的整理。ダイエーなどの再建で使われている。
もう1つが法的整理。私的整理が間に合わず、完全に手遅れになった企業は会社更生法あるいは民事再生法の適用を申請し、裁判所の下で更生計画あるいは再生計画を策定する。担保を持つ債権者には効力が及ばない民事再生法より、会社更生法のほうが強力に再建手続きを進められる。