菅直人副総理・財務・経済財政相は7日午後に行われた財務相としての就任会見で、為替相場の水準について、「本当なら答えない方がいい」と断りつつも、「一時のドバイ・ショックの頃に比べて円安の方向にかなり是正されている。もう少し円安の方向に進めばよいと思っている」「経済界からすれば、やはり(1ドル=)90円台、できれば半ばあたりが貿易の関係で適切ではないかという見方が多い」「為替が日本経済に与える影響を考えながら、適切な水準になるよう、日銀との連携も含めて努力していかなければならない」と述べた。経済界を引き合いに出してはいるものの、ドル/円相場について適切と考える水準に事実上触れた、異例の発言である。これがサプライズ的な材料になり、それまで92円台前半で推移していたドル/円相場は92円台後半へと、発言の直後、円安方向へ急速に動いた。

 菅副総理は国家戦略相と経済財政相を兼務していた昨年12月17日に、「ある程度の円安は好ましい」「一時期の円高で輸出関連企業へのダメージが心配された。多くの輸出関連企業を含め、90円台を期待している」と発言。「通貨政策に影響力が大きい政府要人が、為替などの望ましい水準に言及するのは異例だ」と報じられた(12月17日 時事)。その後、12月25日の会見では、「一時の円高が相当程度是正されている」としながらも、具体的な相場水準への言及は差し控えていた。

 菅新財務相は、前任の藤井裕久氏が円高を容認しているとも受け止められる発言をたびたび行って投機的な円買いを誘発した(いわば「市場の洗礼」を受けた)ことの教訓を生かして、今回、逆に市場に対して「先制パンチ」を繰り出したと言うことができるだろう。円高容認ではなく円安要望の財務相だというイメージを、就任会見での「口先介入」で、一気に市場に刷り込んだ形である。

 しかし、為替相場というのは相手(ドル/円相場ならば米国の政府や産業界)のある話であり、為替政策を所管している当局者が具体的な相場水準の適切・不適切に言及するのは、一種の不文律あるいは紳士協定として、極力避けるべきと考えられてきているのが実情である。自国通貨の下落が経済に及ぼす影響を前向きにとらえた発言には、例えば昨年11月11日にキング・イングランド銀行(BOE)総裁が四半期インフレ報告公表にあたっての記者会見で行った事例があるが、具体的な相場水準への言及は行われなかった。

 昨年9月のG20サミットで「不均衡是正」合意がなされたという事実もある。今回の財務相発言に関連して海外で何らかの発言が出てこないか、注視していきたい。

 もう一点、筆者がコメントしておきたいのは、菅新財務相が就任会見で、「いろんなところに『隠し金庫』があるとすれば、それをオープンにする」と述べて、いわゆる「埋蔵金」の実態公開に意欲を示した点である。