烏賀陽 原発事故を契機に「原子力ムラ」の存在が問題視されるようになりました。電力会社と、政府と、微々たるアカデミズムの学会で人材を分け合い、情報も閉鎖系の中で巡っていることが非難された。

 しかし、アメリカにも「原子力ムラ」はあります。原子力の研究者、技術者は出身大学が限られているので、みんな同窓生で顔見知り。まさに「ムラ」です。ただ、アメリカの「原子力ムラ」の中には、軍という巨大な組織が入っていて、核技術者の巨大な就職先でもあります。軍は、経済原理でもなく、官僚の原理とも別のメカニズムで動いている全く別の世界。「ムラ」を巨大なものが分断しているという感じです。

西村吉雄氏・烏賀陽弘道氏/前田せいめい撮影

 西村 米国では軍の存在が明示的で、原子力の軍事的側面を誰もが知っている。その分、電力会社は「普通の株式会社」としての自由度が与えられているんです。儲からないと思えば、原発は造らない。この20年、新しい原発はひとつも建てられていません。

烏賀陽 スリーマイル事故以来、止まっていますね。

西村 彼らは、儲からないから止めたんです。現在では、廃炉のビジネスの方が中心になっている。ところが、日本には軍がなく、潜在的な軍事のところは隠しておいて、平和利用だけを全面的に出す。それを原子力ムラでやってきたために、電力会社側に撤退の自由が無い。これが、ある意味で閉鎖的なんです。

「自給の脅迫観念」で核燃料サイクル路線に邁進

烏賀陽 不謹慎な冗談なのですが・・・最も効率の良い核燃料の処分方法は核兵器にすることです。

西村 日本が現在、公式に保有していることになっているプルトニウムは国内と、英仏に預けてある分を合計すると、多分、1万発ぐらい作れます。

 六ヶ所村の燃料再処理工場が2012年10月から稼働します。アメリカからの強い圧力で、すぐに核爆弾には転用できないように、ウランとプルトニウムを混ぜたMOX燃料として取り出しますが、実際には毎年8トンのプルトニウムができるそうで、それは核爆弾1000発分に相当します。

烏賀陽 アメリカがカリカリするのも仕方ないですね。これは、日本が最後まで抱えている冷戦構造なのかもしれません。「いつかはなりたい核保有国」と思いながら原発を稼働させ、プルトニウムを取り出していたのに、気がついたら冷戦は終わって、アメリカもイギリスもフランスも「もう核兵器の時代じゃないよ」とか言っている。

西村 もう1つ日本が逃れられなかったのが、「自給の脅迫観念」です。構造的には食料自給とよく似ている。でも、石油を輸入せずに食料が自給できるわけないし、理屈で考えると、全く合理性が無いのですがね。高速増殖炉にこだわるのも、「核燃料をリサイクルし続ければ純国産エネルギーを持つのと同じだ」という発想から抜けきれなかったからなのでしょう。

烏賀陽 第2次世界大戦の引き金になったのが経済封鎖だったことがトラウマになっているのかもしれません。

 私はアメリカの大学院で「国際安全保障論」を専攻しました。そのプログラムの3つの柱は、軍事学、エネルギー政策、食料問題です。それこそが、一国が自立して存在するための基本です。 恐らく、アメリカからは「日本はエネルギー自給に非常にナーバスで、あわよくばエネルギーのついでにプルトニウムで核武装と思っているのだろう」ということが、見え見えなんだと思います。

西村 ただ、「国」って何なんでしょうか。地球全体で考えれば自給が成り立っています。でも、シンガポールでは自給という概念はナンセンスです。マレーシアから水が来なければ3日で機能停止する。でも、シンガポールは恐らく水を自給しようなんて考えません。国土が狭いので、食料自給も成り立たない。

 日本も全てを自給するのはナンセンスですが、自給の観念に取り憑かれるぐらいのサイズはある。そこで「国とは何か」という問題が多分、関係してくるんです。