東京より少し暖かいからだろうか、12月初旬を過ぎても大阪・御堂筋のイチョウ並木はまだ黄色い葉を付けていた。その大阪で久し振りに会った大手商社OBは、呆れたと言わんばかりの表情で、こんな話をした。「この前、東京の本社近くに行ったものだから、後輩とお茶でも飲もうと思って、電話したんですよ。ところが出られない、と言う。忙しいのかと思ったら、そうじゃない、お茶に抜け出す雰囲気じゃないって言うんです。驚きましたよ」
大手商社ばかりではない、どこのオフィスもここ10年くらいの間に環境ががらりと変わった。
窮屈になったオフィス環境
その理由の1つはパソコンの導入である。電話は昔のようには鳴らなくなり、社内外の連絡はメールに取って代わられた。もちろん室内の会話は大幅に減った。部屋によっては、聞こえるのはカタカタというキーボードを叩く音だけ。しんと静まり返り、人の声は1日中ほとんどしない、という部署さえある、という。
もう1つはセキュリティーチェックが厳しくなったからだ。特に2001年の米同時多発テロ以降、どこの会社も出入りが急に厳格になった。社員は全員、首からIDカードをぶら下げ、カードがなければ自分のオフィスにも入れないばかりでなく、常に、在席・外出を監視されている。IT(情報技術)の発達でメモリーカード1枚持ち出されただけでも、膨大な企業秘密が流出してしまうようになり、チェックの厳格さに拍車がかかった。