汚染米事件をご記憶だろうか。カビや残存農薬で食用に適さないコメを農林水産省から格安で仕入れた業者が、主食用として転売し多額の利益を得ていた問題だ。2008年9月に発覚したこの事件がいま、農水省の中で新たな権益の確保と組織の維持という意外な結末を迎えようとしている。そこには、霞が関のお家芸とも言える「焼け太り」の構造が見て取れる。
1人も減らない大リストラ
忘れてはならないのは、この事件は一部の悪徳業者が起こしたものとして片付けるには、あまりに農水省の責任が大きかったことだ。
まず、カビ毒の一種のアフラトキシンや有機リン系殺虫剤のメタミドホスなどの猛毒に汚染されたコメを、丸米(=通常のコメと見分けがつかない状態)で業者に引き渡していた。着色や粉砕などしておけば食用としの流通は避けられたはずだし、糊の原料など工業用としてきちんと使われたかどうかの確認も事実上していなかった。
食用として転売したら何倍もの値段になることを分かっていながら防止の手段を講じず、その後の流通の監視も怠り、国民の健康を危険にさらしていた。そんな農水省に、果たして日本の食を担う意思や能力があるのかというのが、事件が突きつけた大きな疑問だった。「私どもに責任があるとは考えていない」という当時の白須敏朗事務次官(後に更迭)の発言に、疑念は一段と強まった。
そして、2010年度予算の概算要求に当たって、農水省が提出した組織・定員要求には度肝を抜かれた。
農水省は「事件の反省を踏まえ、全国の農政事務所を廃止する一方で、新たに施行する米トレーサビリティ(米トレサ)法に基づくコメの流通監視業務のため同数の職員を充当する」ことを求めた。つまり、事件への反省を理由に組織の大リストラを掲げる一方で、コメの流通監視のためとして、減った人数をごっそり振り分けるという荒技に出たのだ。足し引きの結果として省全体の人数は自然減を除いて1人も減らない。