白川方明日銀総裁が12月21日夜、テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」に出演した。同総裁のテレビ番組への生出演は、1月4日にNHKに出演して以来、約1年ぶりのことである。

 番組の冒頭で白川総裁は、日米欧の消費者物価上昇率の水準には、景気が良かった頃から差があることを、具体的な数値表を示しながら説明。原因として、(1)内外価格差の是正(流通合理化や規制緩和の努力で、衣料品や食料品の値段が大きく下がったこと)、(2)日本の労使が雇用確保を最優先して賃金引き下げを受け入れた結果、労働集約的なサービスの値段が下がったこと、(3)バブル崩壊後、将来の成長への期待や自信を取り戻せない時期が長く続き、需要がなかなか拡大してこなかったこと、の3点を指摘。日銀がかつて行った量的緩和は、日本経済がデフレスパイラルに陥ることのないように金融システムの安定を維持する上で効果があったものの、デフレそのものを解消する効果はなく、デフレの根本的な原因は需要の不足(上記(4))だと説明した。

図表1:白川日銀総裁が12月21日のテレビ出演で示した日米欧の消費者物価上昇率
  80年代 90~97年 98~09年
日本 +2.5 +1.5 ▲0.2
米国 +5.6 +3.3 +2.5
ユーロ圏 +5.3 +3.0 +1.9

注: 総合指数の平均前年比(%)

出所: テレビ東京

 デフレ脱却のための方策として、白川総裁は、一時的な需要喚起政策もそれはそれで必要だが、生産性が上昇していく、将来所得が増えていく、そういうふうな気持ちに人々がなるような状況にもっていくのが最も大事な政策だ、と述べた。

 超低金利政策が続くことが家計にデメリットを及ぼしている点について、白川総裁は十分認識しているとしつつも、銀行が高い金利を支払うためには銀行が高い金利を受け取ること、経済が高い成長をすることが必要で、日銀としては、まずは経済活動の底上げを優先していくとした。また、超低金利政策がキャリートレードの増加につながるリスクについて質問があったが、白川総裁は、各国の中央銀行が常に注視している点であり、新興国からは懸念表明もなされているものの、今の先進国の経済状況を考えると、まずは低金利で経済をしっかり支えていくことが優先する、と返答した。

 さらに、デフレ脱却に向けた取り組みを質問された白川総裁は、デフレからできるだけ早く脱却することが大事であり、日銀は物価のマイナスを許容しないことも明確にした、と説明した上で、次のように述べた。

 「現在の実質ゼロ金利というきわめて緩和した状態を粘り強く続けて経済全体の需給バランスの改善を図っていく」

 「デフレスパイラルを防ぐために流動性を潤沢に供給し、金融市場や金融システムの安定をしっかり維持していく」

 「そのために必要と判断されるようであれば、迅速果敢に行動するという態勢を常に整えている」

 次に、景気が「二番底」に陥る可能性がテーマになった。白川総裁は、日銀が提示しているシナリオに沿って返答。景気は「持ち直しの方向と判断」しており、カギを握るのは世界経済の動向だが、問題はスピード。落ち込みが急速であっただけに持ち直しも当初は急速だが、その後テンポは緩やかになっていくし、バランスシートの調整には時間がかかる。したがって、景気の今後については、「回復のテンポは緩やかで、かつ平坦ではないというように、慎重にみている」。白川総裁は、以上のように述べた。