同じ経済統計の数字でも、報道のされ方によって、人々がその良し悪しを実感できる度合いは大きく異なってくる。インパクトのある見出しのつけ方という点で、筆者が最近最も印象に残っているのが、日経新聞が12月11日朝刊で掲載した記事「ボーナス20年前の水準に 今冬平均70万円 消費に厳しく」である。日経新聞による643社を対象にしたボーナス支給額調査の最終集計で、今年冬のボーナスが前年同期比▲14.81%の大幅減少になった。この▲14.81%という数字自体は、日本経団連の集計結果と大差なく、ニュースの数字としては新味に欠ける。そこで、70万1571円という金額の絶対水準に着目して、それが「20年前」の水準だという点を前面に出したところが、「技あり」である。
家計が支出をするための元手が「20年前」の水準になってしまうと、買うものの値段が「20年前」の水準になってくれないと困る、という発想をする人もいるだろう。実際には、日本人のライフスタイルの変化から、家計が購入する財・サービスの種類や重点の置かれ方が変わってきているため、単純にそうした発想をすべきではないのだが、ここでは、全国消費者物価指数の直近2009年10月分が、「20年前」、すなわち1989年(平成元年)の年平均指数(接続指数)よりも低い水準になっている品目を拾い出してみた。すると、安くなっている品目は、かなり多数に上った。
(1)食品関連
20年前と同価格以下の品目は、「米類」「塩辛」「牛乳(店頭売り)」「ヨーグルト」「ながいも」「グレープフルーツ」「オレンジ」「ぶどうB(=巨峰)」「果物缶詰」「食用油」「砂糖」「ソース」「ケチャップ」「マヨネーズ」「シュークリーム」「チョコレート」「アイスクリーム」「落花生」「紅茶」「ウィスキー」「ぶどう酒」といった顔ぶれになる。
お米は値下がりしているが小麦粉は20年前よりも高い、紅茶は値下がりしているが緑茶は20年前よりも高い、チョコレートは値下がりしているがガムは20年前よりも高いというように、代替品目の間でも、食生活の変化や国際商品市況の影響などを反映して、価格の上下動に違いがあるのは興味深い。
なお、「グレープフルーツ」や「オレンジ」の値下がりには、1990年前後に行われた日米貿易交渉を経ての輸入自由化措置が影響していると考えられる。
(2)住居関連
20年前と同価格以下の品目は、「電気代」、各種の「家事用耐久財」(電子レンジ、電気炊飯器、電気ポット、ガステーブル、電気冷蔵庫、電気掃除機、電気洗濯機、電気アイロン)、「冷暖房用器具」(ルームエアコンなど)、「整理だんす」「室内装飾品」(カーペット、カーテン)、「やかん」「寝具類」(ベッド、布団、毛布など)、「蛍光ランプ」「家事用消耗品」(トイレットペーパー、洗剤、ラップ、防虫剤、柔軟仕上剤など)。
電化製品は、各家庭への普及がすでに一巡していること、海外生産によるコスト低減が進んだことなどから、価格が大幅に切り下がった。その他、家庭で日ごろ使うことの多いものの価格には、日本経済が陥った過少需要・過剰供給構造の中で、20年前よりも水準が大幅に切り下がったものが少なくないことが分かる。関東地方に住む筆者がしばしば耳にする、物干し竿の巡回販売のセールストーク「20年前のお値段です」は、住居回りの品目の間では、決して珍しい話ではない。