元世界トップクラスのテニス選手であり、テニスのスペイン代表監督を務めているエミリオ・サンチェス氏が来日し、慶應義塾大学テニス部に指導に訪れてくれました。

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 サンチェス氏はスペインテニスの一時代を作った名選手であり、前後の球出しを打ち返す「スペインドリル」という練習法を世界中に広めた先駆者でもあります(ちなみに、かつてグランドスラムで活躍した女子の名選手、アランチャ・サンチェス・ビカリオ選手のお兄さんです)。

 引退後はスペイン・バルセロナにおいて、「サンチェス・カサル・アカデミー」というテニスキャンプを主宰しており、数々の世界トップ選手を輩出しています。

 現在、世界ナンバーツーのラファエル・ナダル選手をはじめ、世界トップ100の中に男女合わせて20名近くのスペイン選手がおり、世界のテニス界の最先端を走っています。

現代テニスに合わせて進化するスペインテニス

 スペインの選手がホームコートとして得意としているのは、球足の遅いアンツーカー(赤土)コートです。現在の日本ではハードコートやオムニ(砂入り人工芝)コートが主流であり、球足の遅いサーフェスを得意とするスペイン勢のプレースタイルは参考にするのが難しいと思われています。

 一昔前の日本においては、アンツーカーに近い土のクレーコートが主流であったため、スペインの赤土のコートと同じ感覚がありました。しかし、道具が進歩してパワーテニスの全盛時代になった今、「相手より1球でも多く返すスペインのスタイルは時代遅れなのではないか」「それよりもロジャー・フェデラーやフアンマルティン・デルポトロ(注:今年の全米オープンで優勝したアルゼンチンの選手)のような攻撃的なテニスを目指す方が近道なのではないか」という考えが浸透しているように感じます。

 私自身が師として仰いだ世界的トップコーチであるボブ・ブレット氏も、「スペインテニスは攻撃的ではない」という見解を示していました。

慶應・日吉キャンパスのコートにやって来たエミリオ・サンチェス氏

 ところが今回サンチェス氏の講習を受けて目から鱗だったことは、サンチェス氏の提唱する理論は、私がボブ・ブレット氏から指導を受けた理論と非常に似通っていたことです。

 つまり、スペインテニスは現代テニスに合わせて進化しているのです。パワーテニスの流れに歩調を合わせるように、たとえベースライン後方で打ち合っていても、チャンスボールが来たらフットワークを使って素早くコート内に入り、ハードヒットしていくことを強調していました。

 キーワードは「動き、バランス、スイング、戦略」です。徹底的に身体を鍛えた上で、効率的にフットワークを使い、効率的に身体全体の力をボールに与えて、効率的に戦術を組み立てていきます。