これまで3日間に渡ってエコノミスト・カンファレンス「ベルウェザー・シリーズ2011―アジア太平洋地域における金融の未来像」のリポートをお送りしてきた。
最終回の今日は、『東北復興:金融サービス業界の役割を問う』と題されたセッション。震災からの復興に日本に眠る個人金融資産をいかに活かすか、金融業界が果たすべき役割をテーマとして取り上げる。
パネリストは、政府の復興構想会議検討部会長の飯尾潤氏、シティグループ証券株式調査部マネージングディレクターの野崎浩成氏、城南信用金庫理事長の吉原毅氏。司会はエコノミスト誌東京支局長のヘンリー・トリックス氏。
震災復興を日本を変えるきっかけに
トリックス 今日のカンファレンスでは十分に活用されていない日本の巨額の金融資産をテーマにしてきました。最後のパネルでは、その資産をいかに東北の復興に活かすかという視点で議論を深めたいと思います。
飯尾 今回の震災からの復興は忍耐のいる大変な事業ですが、特に4つの困難があります。
1つは津波の被害があまりにも大きかったこと。しかも、津波の被災地は元通りに家を建てるだけではダメで、高台移転などの措置が必要です。国の予算措置もありますが、家や工場を再建するには、被災者・被災企業にも経済的負担がかかります。
第2に、被災地はもともと高齢化が進んでいて、単に建物を建てるだけでなく、特別の工夫をしなければ産業再生は実現できないということです。
第3に、福島第一原子力発電所の事故がまだ収束していないということ。放出された放射性物質の除去も含めて、復興まで極めて長い時間がかかります。
第4に、日本政府は膨大な財政赤字を抱えていて、経済成長もそれほど望めない。頑張ろうと思っても、電力は足りない。さまざまな制約の中で復興に取り組まなければならないということです。
しかし、こうした問題を乗り越えて復興に取り組むことは、震災前から日本が直面してきた問題の解決につながります。
高齢化した被災地が復活すれば、日本経済の底力を見せることになり、同じように高齢化の問題を抱える海外諸国の参考にもなるでしょう。震災は不幸な出来事でしたが、今回の危機に直面したことは、日本を変える大きなきっかけになるだろうと考えています。