2010年11月のこのコラムで、マツダが開発した「圧縮比14(とても高い)のガソリンエンジン」と「圧縮比14(とても低い)のディーゼルエンジン」について、その革新性と開発の裏側について紹介した。

マツダが生み出した高圧縮比ガソリンエンジンを積む最初の市販車、「デミオ 13SKYACTIV」。その空間の住み心地と走りの資質、いわゆる動質はもはや旧態化したつくり込み手法のまま。マツダ自身の「クルマというもの」への理解、それを実現するアプローチを全面的にリニューアルしないと、理論面の革新をユーザーに、そして社会に実感させられるものは生み出せない。(筆者撮影)

 その技術構想に基づくガソリンエンジンを搭載した最初の市販車となる「デミオ」のマイナーチェンジモデルを「味見」し、マツダのエンジニアたちとも意見交換をしてきたので、今回はまずその話から。

 結論から先に言うと、理論から現物へ、という部分では日本の自動車メーカーが今陥っている停滞を破ろうという意欲が表れているけれども、マツダというものづくり企業の弱点として私が危惧していた部分、人が操る道具としての仕上げ、別の言い方をすれば、私がしばしば使う「動質(クォリティ・オブ・ダイナミックス)」をつくり込む実力の不足が表れている。「画龍点睛を欠く」と評するところにもまだ足りない。龍の絵の輪郭は見えてきているけれども、顔と眼はまだ雑な線描のまま、という印象である。

トルク低下と引き換えに高圧縮比を確保

 まず今回のデミオに関しては、既存の車台(プラットホーム)および車体(ボディ)に、新しい「SKYACTIV(スカイアクティブ)」エンジンを載せている。つまりエンジンルームのレイアウトなどがこの新技術に対応したものではなく、特に排気管を通す空間が十分にはない。そこでSKYACTIVガソリンエンジンで圧縮比を高めつつ異常燃焼(ノッキング)を起こさないようにするキーテクノロジーの1つ、排出ガスの流れや脈動を積極的に使いこなすための少し複雑なレイアウトの排気管が収まらない。

今回デミオに搭載された1.3リットル直列4気筒エンジン。シリンダー部分などを切り開いて内部が見えるようにしたカットモデルだが、14という圧縮比は残念ながら「見て分かる」わけではない。摺動部分のエネルギーロスを減らす設計など、専門家ならば見るところは各所にあるのだが。写真右手、エンジンから張り出している塊の部分が金属ベルト伝達のCVT。このトランスミッションゆえに「お受験」を除いてエンジンの実力が表れにくい。(筆者撮影)

 しかも、そこで燃やす燃料も、日本のレギュラーガソリンはオクタン価(試験方法によっても変わる。この場合はリサーチオクタン価)が「91」と、例えばヨーロッパの標準的なガソリンと比べて少し低い(注:オクタン価が高いほどノッキングが起きにくくなる)。つまり、空気と混合しつつ圧縮、点火プラグで火花を飛ばす瞬間まで燃焼室の中の別の場所で自己着火しないという、ガソリンとしての性能が少し低い。

 このように、排気管のレイアウトも使用するガソリンも、ノッキングを回避するのを難しくする条件が加わった。でも、やはり「14」という圧縮比の数値は、SKYACTIVのキーポイントとして変えたくないと、マツダの人々は考えた。そこでちょっと「裏技」を使ったのである。少し専門的な話になるが、簡単に説明しておこう。