米国の首都ワシントンは7月から8月冒頭にかけて、まるで国政の機能が麻痺したかのような状況に陥った。猛暑の中で、政府も議会も債務問題への対処だけに集中し、他の内政、外交の諸問題はすべて棚上げという感じとなってしまったのだ。

 債務問題とは言うまでもなく、積年の財政赤字に悩む米国政府がその赤字を埋める債務の上限を引き上げるための措置をどうするか、である。上限は決まっているのだが、債務が増えて、その上限を上げないと、政府の資金がなくなって米国債のデフォルト(債務不履行)が起きてしまう、という大危機だった。この危機への対応を巡って、オバマ大統領と与党の民主党に、野党の共和党が挑戦する形となり、一大対決となった。

 この債務問題は、今や米国債権の格付けの初の引き下げという事態を招いた。米国の格付け会社「スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)」が米国債券を初めて、最高ランクのトリプルA(AAA)からAA+へと格下げしたのである。この引き下げによる世界の金融市場などへの大きな影響が様々に懸念されている。

オバマ大統領に大幅な譲歩を迫った「小さな政府」陣営

 さて、発端のワシントンでの債務の扱いを巡る争いでは、論議の核心は「大きな政府」か「小さな政府」か、である。リベラル思想と保守主義との対決でもあった。国民と政府との関係のあり方と評してもよい。

 この点では同じように巨額の財政赤字を抱えた日本にとっても、ワシントンでの暑い夏のこの対決は決して対岸の火事ではないのである。

 米国連邦政府の債務上限はこれまで14兆2940億ドルだった。だが、その額ではもう国債その他の形での借り入れの利子支払いなどができなくなり、その上限を引き上げることが切迫した課題となった。その期限は8月2日とされ、その日までに債務上限が引き上げられなければ、米国債のデフォルトが起きると懸念された。万が一、そんな事態となれば、世界経済全体にパニックの輪が広がる。

 オバマ大統領や議会の民主党首脳はとにかく債務の上限だけをすんなりと引き上げることを基本的には望んだ。だが、共和党側は政府の支出を減らし、現在の赤字をも削るという措置を同時に取ることを迫った。政府の支出過剰という問題の根源に触れなくては、債務問題への対応にはならないと主張したのだ。