3日の東京外為市場で、ドル/円相場が円高ドル安に動き、一時91.94円をつけた。その後の欧米市場では92円台で推移。日本の大手輸出企業が現在設定している社内レート(財務上の想定為替レート)は、ドル/円で90~95円程度、ユーロ/円で125~130円程度の場合が多い。市場実勢に合わせる形で、企業は徐々に円高方向にシフトさせてきたわけだが、その市場実勢が円高方向に再度動いているため、為替面での収益バッファーが乏しい状態になっている。

 現在の為替相場のテーマは「米国株の上下動」あるいは「リスク許容度の大きさ」だというのが、筆者の整理である。米国株が上昇すれば、リスクマネーが戦線を拡大し、ユーロや豪ドルといった通貨が買い進まれ、「逃避通貨」という位置付けに現在なっている円と米ドルからは資金が流出する。クロス円取引では円安が進行する。

 一方、米国株が下落すれば、リスク回避志向の強まりが意識されて、ユーロや豪ドルといった通貨が売り戻され、「逃避通貨」である円と米ドルに資金が流入する。クロス円取引では円高が進行する。また、円と米ドルはともに「逃避通貨」であるため、ボックス圏内で推移するケースが多くなると考えられるが、米国の構造不況が米ドルの悪材料として意識されること、クロス円の値動きに引きずられる部分があることから、米国株の下落場面では、円高ドル安に傾斜しやすい。

 高いPER(株価収益率)水準や好材料に対する感応度の鈍さからみて、すでに戦線が相当伸びきった感が漂う米国株については、今後の下落余地が大きいものと筆者は判断している。したがって、ユーロ/円などのクロス円取引、さらにはドル/円相場についても、円高進行余地が十分あると考えられる。ドル/円が年内に90円を割り込んで、直近の円高ピークである87.10円(今年1月21日に記録)を目指すことは避けられないだろう。

 ここで注目されるのが、鳩山由紀夫次期政権が為替相場の問題でどのように対応するか、という点である。結論から言うと、円売りドル買い介入は、国際的にみてよほどの非常時でない限り、実行するのは非常に困難である。筆者がそう考える主な理由は、以下の3つである。

(1次期政権も引き続きG7合意(含む為替介入実施が可能となる条件)に縛られること

 当たり前のことだが、ある国で政権が交代しても、それまでの政権が関与してきた国際的な合意の内容は、そのまま維持される。G7は共同声明に毎回、「為替レートの過度の変動や無秩序な動きは、経済及び金融の安定にとって悪影響を与える」といった類の文言を盛り込んでいる。

 国際的に危機意識が非常に高まった「ドル安」局面ならば、円売りドル買い介入実施の目があると考えられる。だが、日本経済だけが圧迫される「円高」局面では、例えば数日のうちに1ドル=80円に急接近するといった、誰が見ても「過度の変動や無秩序な動き」にあてはまる動きでも起こらない限り、円売り介入実施について米国などG7各国の理解を得るのは難しいだろう。

 また、「過度の変動や無秩序な動き」の場合でも、介入が許容されるのは、相場の値動きを円滑にし安定化させることを狙った、いわゆるスムージングオペのみである。特定の為替相場水準を維持することを狙った大量介入が行われることにならないのは、言うまでもない。

 G7やG20が反保護主義を打ち出しているだけになおさら、自国通貨安に誘導する為替介入を、先進国は行いにくくなっている。なお、主要先進国ではスイス国立銀行(SNB)が自国通貨売り介入を断続的に行っている模様だが、これは小国の特例であり、金融機関の情報開示を進めることとのバーターで米欧が事実上黙認しているのではないかという見方もされている。

 昨年10月27日には、円高を焦点に据えたG7共同声明が発せられ、「我々は、最近の為替相場における円の過度の変動並びにそれが経済及び金融の安定に対して悪影響を与え得ることを懸念している。我々は、引き続き為替市場をよく注視し、適切に協力する」というメッセージが市場に発信された。だが、この時でさえも、日本が実弾介入を行うことはなかった。