衆院選で民主党が大勝し、日本の政治が歴史的な変革期に入る中で、9月中旬の発足が見込まれる鳩山由紀夫次期政権が日銀との間でどのような関係を構築していくのかが、市場で関心事の1つになっており、マスコミからも関連する報道がいくつか出てきている。

 しかし、結論から言うと、新政権からの圧力によって日銀の金融政策運営に大きな影響が出てきたり、政府と日銀との間で国債消化問題をめぐる「アコード(政策協定)」が急浮上したりするようなことはなく、日銀は淡々と現在の超金融緩和路線を継続するだろうというのが、筆者の見立てである。そう考える根拠は、以下の3点である。

 まず、民主党主導の次期政権は、中央銀行の独立性がいかに重要かを十分念頭に置いた上で慎重に振る舞うと考えられるし、そうすることが政治的な損得勘定でベストである。
仮に、金融政策運営への安易な介入(口先介入を含む)が主要経済閣僚や党幹部らによって行われるようだと、野党やマスコミから強い批判を浴びることは間違いない。また、政策運営への介入めいた言動が政府与党側から行われれば行われるほど、政治圧力に明らかに屈したと見られかねない決定を日銀が行いにくくなるという事情もある。

 民主党は今後、政権担当能力が十分あることを、実績によって内外に示していく必要があるわけで、独立した中央銀行へのあからさまな干渉は、政治的な損得勘定からすれば「有害無益」である。

 ただし、次期政権は社民党、国民新党との連立政権ということになるだけに、発言がマスコミで取り上げられる政治家の顔ぶれは多彩になる。イレギュラーな発言が飛び出してくる可能性が潜在していることは否めない。

 次に、現在の白川方明総裁率いる日銀体制は、参院の多数党としての力をバックに、事実上民主党が実現の立役者になって出来上がったものだという、そもそもの事情がある。事実上の「任命責任」の問題である。

 財務省出身の日銀総裁候補に反対し、現在の白川総裁・山口広秀副総裁という日銀プロパーコンビ主導の体制づくりに最も貢献したのは、民主党であった。その際に、日銀の金融政策運営の財政政策からの独立性確保という文脈で、「財金分離」という用語が使われていた。

 民主党の側には、日銀の現体制に関して、「実態としての任命責任」とでも言うべきものが存在するように思われる。これもまた、民主党主導の政権が「白川日銀」の政策運営を批判し、これに介入しようとすることを慎まざるを得ない理由の1つになると考えられる。

 さらに、仮に日銀に対して次期政権が圧力をかけるとした場合に、いったい「何を要求するのか」というそもそもの問題がある。

 民主党側から日銀に要求がなされるのではないかという政策の最有力候補は、大塚耕平民主党政調副会長が8月7日のアナリスト・マスコミ向けマニフェスト説明会で示唆した、日銀による長期国債買い入れ増額と、これにまつわるアコード締結であろう。

 しかしその場合、長期国債購入の増額は何を目的として行われるのだろうか。