「混雑を緩和し、排ガスを減らす、スマートな輸送手段」――。米オバマ大統領は今年4月、自動車大国アメリカに高速鉄道を整備する計画を打ち出した。
地球温暖化問題への関心が高まる中、高速鉄道は「環境負荷の低い公共交通システム」として見直し機運が高まっている。世界各地で整備構想が浮上し、ちょっとしたブームとも言える状態だ。新幹線は日本の高い技術力を結集させた戦略輸出品の1つだが、政権交代が、国際的な売り込み合戦に微妙な影を落としそうだ。
サッカーW杯が建設後押し
高速鉄道の建設計画が浮上しているのはインド、米国、ロシア、中国、ブラジル、ベトナムなど世界で少なくとも11カ国に上る。安定的な大量輸送ができる上、二酸化炭素(CO2)排出量の少ない効率的な輸送機関という点が魅力だ。
世界最速を誇るフランスのTGVや、ゆったりとした車両設備が人気のドイツICE、スペインのAVEなどがビジネスチャンス獲得に向けて意欲を燃やす。アジアでも、かつては、フランスが日本に競り勝った韓国が技術力をつけて、今度は建設する側で強力なライバルとなりつつある。
中でもいま一番の注目市場は、冒頭で紹介した米国とブラジルの2カ国だ。
米国の高速鉄道計画はオバマ米大統領が打ち出した「グリーンニューディール政策」の一環。カリフォルニア州やメキシコ湾岸など全米11路線の建設が有望視され、投資額は130億ドル(約1兆2000億円)に上る大型プロジェクトだ。
また、「いまのところ米国より早く構想が具体化する可能性が高い」(国土交通省)とみられているのが、2014年にサッカーワールドカップが開催されるブラジルだ。
その「本気度」は高く、ルラ大統領は14年までにリオ~サンパウロ~カンピーナスの全長約500キロのうち、一部区間だけでも開通したいという強い意向を持っているという。秋には入札が開始される予定で、「スケジュールの遅れはあるものの、順調に計画は進んでいる」と関係者は話す。
役者は揃い始めたが・・・
日本も売り込みに向けた動きを加速している。
国土交通省は5月、JR東日本やJR東海、鉄道・運輸機構などと米国向け輸出に関する意見交換を行う社長クラスの枠組みを発足させた。9月1日には省内に専門チームとして「鉄道国際戦略室」を新設し、14人体制で米国やブラジルをはじめとする新幹線の海外展開に積極的に取り組む。