解散総選挙は、大方の予想通り民主圧勝の結果となった。永田町では、1993年の細川連立政権発足以来、16年ぶりの政権交代に沸き立っているが、国会議事堂を挟んで坂の下にある霞が関・財務省では、8月31日、静かに2010年度予算の概算要求を締め切った。

民主党、地滑り的圧勝で政権交代へ

予想通りの民主圧勝〔AFPBB News

 8月の総選挙は戦後初だった。与謝野馨財務相が出陣式で座り込んでしまった姿がテレビで繰り返し流されたが、残暑厳しい9月11日が投開票だった4年前に続き、暑さとの戦いの厳しい選挙戦となった。

 選挙一色の夏だったが、中央省庁にとっても、例年8月は次年度予算概算要求を取りまとめるための議論が戦わされる「熱い」季節だ。

 来年度に向けてどんな施策を打ち出すか。何を目玉事業にするか。局、部、課がそれぞれ仕込んだ「タマ」を積み上げ、精査しながら要求書をまとめていく。少し大げさに言えば、各省庁がその考え方、あるいは存在意義を主張する数少ない機会であり、霞が関にとっては、年に数度の重要イベントの1つと言っていいだろう。

永田町の騒ぎはどこ吹く風。霞が関は、静かに概算要求の締め切り日を迎えた(財務省)

 しかし、今年は事情が違った。要求書提出締め切り日として設定された8月31日の前日が解散総選挙の投開票日となってしまったからだ。

 民主党は年明け以降、自治体首長選や都議選の勝利で弾みをつけ、選挙戦が始まる前から各種の世論調査で優勢が伝えられていた。政権交代が確実視される中で、退場間近の政権が決定した概算要求基準に沿って渾身の一球を投げ込んだところで、新政権によって白紙に戻されるリスクは織り込み済みだった。

 各省庁は基本的に「静観」「模様眺め」を決め込み、その結果、要求内容も小粒で特色の無いものとなった。毎年、お盆前後には、新聞各紙が概算要求に盛り込まれる新規施策の目玉を大々的に報じることが多いが、今年は、その特ダネ合戦も鳴りを潜めた。

越年予算は景気回復に冷や水

 ともかく、スケジュール通りに概算要求は締め切られ、予算作業はスタート地点に立った。新政権は即、予算の骨格を政治主導で進めるための「国家戦略局」を設置し、民主党がマニフェスト(政権公約)に掲げた施策に着手する見込みだ。

 しかし、年末まで残された時間は4カ月。財務省が最も懸念するのは、2010年度予算が「越年編成」となる事態だ。通常は、概算要求を締め切った後は、同省などによる査定を経てクリスマスの頃に予算案が決定。年明けからの国会審議を経て年度内に成立する。

民主党の次のリーダーは誰?4人の有力な候補

早くも、概算要求やり直しを示唆 (菅直人民主党代表代行)〔AFPBB News

 民主党の菅直人代表代行は、31日の未明、民放の開票速報番組の中で「麻生太郎首相は、概算要求の受け付けをやめるべきだ」と発言。鳩山由紀夫代表も「いよいよ政権交代という時に、民主党の目に触れていない形で概算要求が行われるのは歓迎すべきではない」と述べ、抜本的な見直しを示唆した。

 概算要求の手続きをやり直すとなれば、今後、本格化する予算編成のスケジュールに響くことは避けられない。

 1993年夏。政権交代により発足した細川内閣では、1994年度予算案決定が94年3月4日と越年し、成立は同6月23日にまでずれ込んだ。国の予算は地方自治体の予算にも影響し、国、地方自治体に関連する事業が滞る事態に陥る。当時、この予算編成の遅れが景気悪化に拍車を掛けたとも指摘された。