この連載では、サッカーの「ファンタジスタ」からビジネスの世界のヒントを得るべく、議論を進めてきた。

 ファンタジスタと称されるプレイヤーたちがフィールドで発揮する類まれなる能力を抽出し、その源泉となっている資質を観察するうちに、これは希少な天賦の才を賞賛する話ではなく、もっと人間に根源的な、幅広く共有された価値の話に回帰するのだった。

 昔、「神の手」と自らを称したプレイヤーがいたが、全くそうではなかった。世界中の崇拝を集めた一時の偶像は、俗世間の灰燼にまみれ、地に堕ちた。しかしながら、タフに生き残る資質を備えた彼、ディエゴ・マラドーナは、その片鱗を見せて今も存在感豊かである。その姿は神というよりむしろ咆哮する獣に近いが、20世紀を代表するファンタジスタであることは議論をまたない。

 流行り言葉で言えば、激減する肉食動物なのかも知れない。成熟社会では、個として生き延びる力は相対的にその意義を失う。多くが牙を抜かれ去勢される中、生に飢え、血が滾(たぎ)った個は希少で美しいまでに魅力的な存在である。

 その個の輝きを取り戻さんとする価値の象徴こそファンタジスタであり、個人の煌きを最大限に発揮する仕組みづくりがファンタジスタ経営である。

 最終章として、ここでは個人の力を最大限に発揮させる仕組みづくりについて述べよう。

ルールではなくプリンシプルに即して行動する

 まず、個の力の独自性を必要とする仕組みである。

 現代の事業環境の複雑化や市場の成熟化は、ビジネスが提供する価値を多様に、また曖昧にせざるを得ない。それに伴って価値の提供側は、全員に寸分違わぬ同じ行動を強制する上意下達の軍隊型組織では対応しきれなくなっている。

 個々の顧客と遭遇する場面ごとにさじ加減を考えたサービスを提供するためには、中央だけが模範解答を考えるのではなく、手足に脳を備えて現場で考えねばならない。

 キーワードは「フラット」、そして「ルールからプリンシプルへ」の移行である。一人ひとりがより自由に、創意工夫を以って何が最適かを考えるためには、行動を手取り足取り指示する中間管理職や枝葉末節まで管理する膨大なルールの体系は必要ない。フラットな組織構造とルーズな規律、各人が自身の行動の適否を判断するためのシンプルで分かりやすい価値規範があればよい。

 法律、会計、コンサルティング等のプロフェッショナルファームにその範を見る形態で、いくつかのプリンシプル(原則、方針)に則って行動しさえすればよく、複雑なルールや詳細に及ぶ指示や確認を極力廃している。構成メンバーの各人が自分で考え、判断し、行動する自由と責任を担っている。

 プリンシプルは、商社など比較的フラットな組織はもちろん、最近では巨大なオペレーションを実施している会社の中にも広がっている。例えば、小売、ホテル、エアラインなどのサービス業。「顧客満足を最優先」という価値規範に則って行動すれば基本的に何をやっても自由という具合だ。そんなルールらしからぬルールは、働く者に大きな自由を感じさせ、それぞれの独創性を刺激し忠誠心を鼓舞する効果がある。