マサチューセッツ工科大学(MIT)のメディアラボといえば、グーグルストリートビューの大本になった技術やアマゾンのキンドルに使われているEインクなどの革新的なテクノロジーを生み出した、世界トップレベルの基礎研究機関である。
しかし、設立から25年経ち、近年は話題性やスポンサーから得る予算が下降気味で、テコ入れが必要でもあった。そこに4代目の所長として就任が決まったのが、伊藤穣一氏。もちろん日本人初の快挙であり、伊藤氏のデジタル界における影響力や人的ネットワーク、ベンチャーキャピタリストとしての経験が高く評価された。
先に「今週のJBpress」でも触れたが、伊藤氏が語るリーダーシップのあり方は、いまの日本が抱える問題の本質を考えるうえで非常に示唆に富む。メディアラボの改革から小泉純一郎の功罪まで、インタビューの内容を詳しくご紹介する。
長期的な視野で産業を育てるコミュニティーをつくりたい
── ニューヨーク・タイムズは今回の件を「異例の選択」と報じていますが、伊藤さんを所長にしたメディアラボの狙いは何でしょう?
伊藤 メディアラボが調査をしてリストアップした250人の中から選ばれたと、僕もニューヨーク・タイムズで読みました(笑)。最終的に僕に白羽の矢が立ったのは、ひとつにはバックグラウンドが普通じゃないからでしょう。
メディアという分野で基礎研究をやっているところは、メディアラボしかありません。ここはある意味、基礎研究のためにお金を集めるNPOのような世界なんです。
だからこそ、ほかとは違ういろいろな課題をクリアすることが、トップには求められます。
300人ぐらいのスタッフが好きなことしかしない組織をどうマネジメントするか、スポンサーとの関係をどうするか、さらには世界中にインパクトを与える、未来を発明する、などのビジョンをどう具現化するか、といった具合です。
そうなると、学者ではお金集めはやりたがらないし、ビジネスマンだと非営利団体やボランティアのマネジメントを知らないでしょうし。
その点、僕は非営利団体、営利団体、学者、ベンチャー、その辺をいろいろ経験していますし、世の中にメディアラボのビジョンを伝えていくという意味でも適性があると思われたのかもしれません。
── 所長として、これから何をやりたいですか?
伊藤 最初にやらなければならないのは、もっと多様性のある組織にすることです。世界的な研究機関ではありますが、今のメディアラボは米国人の比率が高い。女性の比率も25%にとどまっています。