世界的な金融危機は最悪期を脱し、景気は底入れの兆しを見せている。これを受けて、危機対応で非常手段を余儀なくされた各国中央銀行は金融政策の正常化に向けた「出口」を模索し始めた。日銀政策委員会でも出口論が浮上するが、現状では非常手段の解除が精一杯といったところ。出口政策は半歩前進できれば成功で、完全脱却への道のりは果てしなく遠い。
「経済が回復に向かうなら、臨時・異例の措置をどのような方法で解除するか検討する必要が生じる」――。日銀が公表した議事要旨によれば、4月30日の金融政策決定会合で、ある委員が初めて、出口論に言及した。
しかし、その次の会合(5月21、22日開催)では出口論の議論は無かったようだ。むしろ白川方明総裁は会見で具体的な言及を避け、亀崎英敏委員は「考える時期に至っていない」と慎重姿勢を示した。
日銀、金利急騰を懸念
日銀が解除論を封印しようとするのは、金融市場が将来の利上げを織り込み、長短金利が過剰反応で急上昇するリスクがあるためだ。
話を進める前にまず「出口政策」の意味を改めて整理しておこう。簡単に言えば「異常な金融緩和政策を正常に戻す」ことだ。手続きとしては、(1)企業金融支援オペやコマーシャルペーパー(CP)・社債買い入れなどの臨時措置を止める → (2)ゼロに近い政策金利を修正する――といったプロセスになるだろう。
2006年に量的緩和政策を解除した際には、(1)〔3月〕政策目標を「量」から「金利(0%)」に変更。同時に当座預金残高を削減 → (2)〔7月〕金利をプラス(0.25%)に復活という手順を踏んだ。金融市場は、この時の経験に照らして、臨時措置解除の議論が始まった段階で、「出口政策」の最終段階である利上げまで予想し、長短金利が跳ね上がる恐れがあるわけだ。
実際、企業金融支援オペは短期金利を抑えつける上で強力な効果を発揮している。金利の抑えがなくなり、利上げまで行われる、とのイメージが一気に広がれば、市場金利が急上昇する可能性は高まるだろう。
日銀が警戒するのは、金利急騰を抑えるために国債買い入れの増額を余儀なくされることだ。政府の増額圧力に屈して市場金利に介入する買い入れに踏み込むと、際限なく買う羽目に陥ることは必定。自ら課した「銀行券ルール」(4月28日の当コラム「通貨信認の本質とは?」参照)に抵触し、信認を失うことになりかねない。日銀としては不要な憶測を招かないよう解除論議はいったん棚上げした方が得策と判断しているようだ。