旧知の経営コンサルタントからこんな話を聞いた。

 経営改善策を依頼されたある大手企業を調べてみると、不思議なことがあった。人件費などを含めると明らかに赤字を出している商品が、営業部門で積極的に販売されている。担当者にヒアリングすると、その理由は単純だった。営業マンの評価が売上高で決まっていたからだ。

 もちろん、売れば赤字になることは、現場は百も承知だったという。時代の移り変わりでそんなことになっていたのだ。

 が、評価を変えるとなると、他のセクションとの調整が必要になるし、自分たちの権限では何ともしようがない。何より、役員はじめ変化に気付いていなかった上層部を説得するのが面倒だ。そんな理由から、おかしな販売が放置されていたのだという。

 結局、評価システムを売上高から利益に変えて、営業部門の業績は大幅に改善されたという。

 「現場は分かっているんです。でも上層部は何が合理的かをなかなか理解しないし、動こうとしない。だからお互い『馬鹿な上司』を肴に、酒を飲んでグチを言い合うんです。飲み屋とか会社の喫煙室は経営改善案の宝庫ですよ」。このコンサルタントは、苦笑しながらこう言った。

合理的判断欠き、「時代」に追い抜かれたGM

GM、破産法申請を前提に新提案 債権者も支持

「時代」に追い抜かれ、経営破綻〔AFPBB News

 世界最大の自動車メーカーだったゼネラル・モーターズ(GM)の破綻も、やはり経営の合理性を欠いた結果だろう。

 石油価格高騰や排ガス規制の問題が現れて以来、GMは日本車の攻勢に押されっぱなしだった。それでも日本車の輸出自主規制という市場外の手段によって、生き延びる。といってGM人気が復活したわけではない。

 が、1990年代後半になると、ガソリンをがぶ飲みする大型ピックアップトラックやSUV(スポーツ用多目的車)が米国市場で売れ出す。石油価格が落ち着いた上、米経済の好況が長く続いたからだ。

 これらの車は日本製小型車に比べると、1台あたりの利益は2~3倍と言われる。トヨタ自動車でさえ、この利益幅の厚さに米国でSUVの生産を始めたほどだから、GMにとっては救世主のような存在だっただろう。

 しかし、それゆえに今度は燃費向上のためのエンジン開発や環境対策車への投資意欲は落ちてゆく。今が良ければすべて良し。経営に「時間軸」を組み込むことができない。目の前の利益に満足せず、未来への投資を怠らないという合理的判断を欠いた結果、経営が「時代」に追い抜かれてしまった。

 わが亡き後に洪水は来たれ。GMは栄光ある100年の歴史に幕を降ろさざるを得なかった。