日本郵政の西川善文社長の進退問題が、混迷を極めている。西川社長続投を断固として認めない鳩山邦夫総務相を批判する与党議員は少なくない。その一方で、与党内には西川社長の自発的辞任を求める声も増えつつあるが、政府関係者は「西川が辞める理由はない」と反発。事態収拾のめどは立っておらず、麻生太郎首相も身動きが取れない状況だ。麻生の指導力不足を指摘する声が強まり、首相周辺もあわてて早期決着に動き始めた。(敬称略)

鳩山法相、朝日の「死に神」報道に不快感

一歩も退かぬ鳩山邦夫総務相(参考写真)〔AFPBB News

 6月9日の参院総務委員会。日本郵政に関する集中審議で、西川と鳩山は激しく火花を散らした。

 「いったん引き受けた以上、民営化の土台をしっかり築くことが私に与えられた責務だ」――。西川は日本郵政社長を自ら辞任する考えはないことを重ねて強調した。これに対し鳩山は、保養・宿泊施設「かんぽの宿」を格安で一括売却しようとした日本郵政経営陣の責任を指摘、「(西川に)統治能力があるのか」と痛烈に批判した。6月29日の日本郵政の株主総会で西川続投の取締役再任が認められても、「(取締役)許認可権限を信念に基づき行使したい」と述べ、続投を認可しない考えを重ねて強調した。

 今のところ、双方に歩み寄る気配は全くない。「落とし所なんてあるわけない」と鳩山の発言がエスカレートすると、自民党幹部が「街頭で(記者に)しゃべるな、口は災いの元だ」と注意した場面もあった。

西川社長の自発的辞任か、首相が鳩山大臣罷免か

 この前日、6月8日の政府・与党連絡会議。公明党幹事長の北側一雄が日本郵政社長人事について「決着を急いでもらいたい」と苦言を呈した。この問題の決着が遅れれば遅れるほど、与党にとって次期衆院選のマイナス材料となり、トップリーダーの指導力も問われる。麻生が早く問題解決に乗り出すよう、北側は促したのだ。

 自民党元幹事長の加藤紘一は、西川、鳩山の双方に不満を示す。「早く決着すべきだ。わが党にも国にも良くない。鳩山総務相の言うことも分かるが、物事を大きくし過ぎる。西川さんも国有化されていたものを処理する時には『李下に冠を正さず』でいかないと、いろいろ言われる。どっちもどっちだ。選挙に影響する。怒りを持って(今の状況を)見ている」

 政府・与党内では解決策として、(1)西川の自発的辞任、(2)麻生が鳩山を罷免、(3)西川を代表取締役社長から、代表権のない執行役に降格、(4)条件付きの続投容認――などが取り沙汰されている。

 西川の自発的辞任を求めたのは公明党選対委員長の高木陽介だった。6月7日、テレビ番組で「西川氏が辞めるのが1つの選択肢。鳩山さんが辞める選択肢はない」と言明した。ほかにも、「首相が傷つかず、鳩山さんも辞めずに済むには、西川さんに辞めてもらうしかない」(参院自民党幹部)、「西川さんが自発的に辞めてくれれば収拾がつく」(公明党ベテラン)といった意見が出始めている。

小泉構造改革派、「麻生降ろし」の思惑も

 もちろん郵政民営化支持議員の間では、「西川社長が辞める理由は全くない」(自民党中堅)などと西川擁護論が多い。民間から招いた西川は、小泉構造改革の象徴的な存在。辞めて喜ぶのは、現状の郵政民営化路線に反対する与党議員の一部や野党側だ。

 自民党元幹事長の中川秀直は日本郵政社長人事について「郵政民営化を貫徹していくかどうかの問題。民間会社である日本郵政の指名委員会が決めたこと(=続投)を政治がひっくり返すべきではない」と強調、鳩山の「政治介入」を非難した。