私たちが享受しているモノやサービスがあふれる豊かな社会は、米国の自動車産業がもたらしたとも言える。一般の人々に自動車を普及させるために米フォード・モーターが開発した「T型フォード」の生産システムにより、大量生産・大量消費時代が幕を開けた。
しかし、今や米国の自動車産業は「凋落の道」の最終コーナーに差しかかったように見える。マツダの危機を救ったフォードは、マツダ株の売却益が頼みとなり、ゼネラル・モーターズ(GM)は米国政府の支援なしに生き残りが難しいかもしれない。
GMが凋落し始めた理由とは
なぜ、あれほど強かった米国の自動車産業が惨憺たる状況に陥ってしまったのか。理由を挙げ始めたらきりがない。しかし、恐らく賛成者はほとんどいないと思われる点ながら、指摘しておきたい理由がある。
世界最大の自動車メーカーとなり、その絶頂期に経営の指揮を執っていたGM中興の祖、アルフレッド・スローン氏が編み出した経営手法。レイオフ制度の導入だ。
不況期に固定費の増大に悩んでいたGMにとって、企業経営的には大きな価値のある一手だった。それが証拠に、多くの米企業がその制度を取り入れた。
しかし、働く人の気持ちを静かに、しかし大きく変化させる一手でもあった。企業がそこで働く人に対する敬愛を薄れさせた時、企業は衰退を始める。
同じことは、国家にも言えないだろうか。目立った資源がない我が国は、ギリシアのスパルタと同じように国民が唯一とも言える財産のはずだ。
その国民をいたわり育てる意思があってこそ、国は発展する。しかし、迷走を続ける政治と既得権益ばかり考えている官僚たちは、それをどこかに置き去りにしてしまったようだ。バブル経済が崩壊して以来、日本に活力が戻らない根本原因はここにある。
この本は、国民、なかんずく日本の将来を支える赤ん坊について、日本という国がいかに愛情が乏しいかを、不幸にして生まれてきてしまった1人の赤ん坊の行方を通して活写している。この本が指摘する点は、日頃私たちが見逃しがちなのかもしれない。しかし、実はこういうところにこそ日本が持つ本当の問題点が潜んでいる。