世界的な超低金利である。しかし、先進7カ国(G7)の中央銀行は、揃って「ゼロ金利」には突入せず、直前で踏みとどまっている。

日銀、1兆円枠の銀行保有株買い入れを再開

世界をリードする「白川ドクトリン」
AFPBB News

 ある日銀幹部はその理由を「金利がゼロになった場合の副作用が広く共有されているため」と説明する。ゼロ金利の弊害を知り尽くす日銀の白川方明総裁は、市場機能の維持の重要性を繰り返し訴え続けてきた。日銀内で「白川ドクトリン」と称されているこの主張は、もはや日銀のみならず「国際的に浸透してきた」(別の幹部)ようだ。

 G7各国の現在(5月28日時点)の政策金利を見てみよう。欧州中央銀行(ECB)は1%。日銀は0.1%、米連邦準備制度理事会(FRB)が0~0.25%、イングランド銀行0.5%、カナダ中銀0.25%となっている。ピンポイントでゼロ金利をターゲットにしている中央銀行は見当たらない。

 では、「ゼロ金利」が選択肢になる可能性はあるだろうか。

 各国の金融政策運営を見る限り、当面その可能性はなさそうだ。日米英などは既に国債や社債、コマーシャルペーパー(CP)などを買い入れる「質的緩和」に政策の軸足を移しているためだ。ゼロ金利が強力な緩和策なら、質的緩和を手掛ける前に金利をゼロとしたはず。ゼロを素通りして「質的緩和」に向かったと読み取れる。

 ECBに至っては比較的高めの政策金利であるにもかかわらず、「カバードボンド買い取り」という質的緩和に着手する方針を決めた。このことは「ゼロ金利になるべく距離を置きたい気持ちの表れ」 (外資系証券エコノミスト)と受け止められる。

 カナダ中銀は「時間軸政策」の導入がゼロ金利の可能性を否定している。時間軸政策とは、金利の据え置き期間を予め宣言して市場金利の低下を狙うものだ。カナダ中銀は先月0.25%に利下げした際、来年6月末までこの水準を据え置くことを決めた。時間軸政策は日銀が過去のゼロ金利での量的緩和政策下で経験済みだが、カナダは金利をプラスにしての適用となる。

米FRB、09年の経済見通しを下方修正 前向きな見方も

市場金利をプラス圏で維持(FRB)〔AFPBB News

 先に進む前に、FRBの金融政策について多少補足しておこう。マスコミではFRBがゼロ金利を実施しているかのように報道されるが、これは正確ではない。誘導目標の下限をクローズアップさせているに過ぎない。

 実際にはFRBは準備預金に付利し、市場金利をプラスに維持しようとしている。ニューヨーク連銀ホームページの右肩にフェデラルファンド(FF)金利のチャートが掲載されているが、0%には一度も到達せず、むしろ0.25%に近い水準で推移しているのが一目瞭然だ。