写真提供:Beata Zawrzel/NurPhoto/©Sebastian Ng/SOPA Images via ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ

「これでいい」ではなく「これがいい」と思ってもらうことが、これからのブランドには必要だ。現在、似たような商品・サービスが量産され市場に溢れている。それは、他社も同じ手法を取ってデータを集め、分析し、商品開発をしているからだ。だが、デザインの力を経営に取り入れることで、自社の強みや力を発揮した、より魅力的で長く愛される新しいブランドを生み出すことができるかもしれない。本連載では、『デザインを、経営のそばに。』(八木彩/かんき出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。元電通のアートディレクターが15年の経験と豊富な事例を基に、デザインの力でブランドの魅力を引き出すための考え方とプロセスを解説する。

 今回は、スターバックスとユニクロを例に、独自の「ブランドコンセプト」を創り出す考え方を紹介する。

本稿は「Japan Innovation Review」が過去に掲載した人気記事の再配信です。(初出:2024年8月20日)※内容は掲載当時のもの

【スターバックスの例】

 有名な例ですが、スターバックスのブランドコンセプトは「サードプレイス(第3の場所)」です。

 サードプレイスという概念は、社会学者のレイ・オルデンバーグが1989年に著書『サードプレイス――コミュニティの核になる「とびきり居心地よい場所」』(忠平美幸訳、みすず書房)の中で提唱したものです。

 当時のアメリカは、価値観の断片化が進んだ結果、過剰なハイテンション社会になりました。職場では競争のプレッシャーが強く、家庭にもいろいろな問題があります。家(第1の場所)と職場(第2の場所)を往復する人が多く、非常にストレスフルな状況でした。

 そのような状況の中で、ドイツのビアガーデンやイギリスのパブ、フランスやイタリアのカフェのような、「人々には居心地のいい第3の場所が必要なのではないか」という発想から、スターバックスのコンセプトは生まれました。

 つまり、スターバックスの商品は単にコーヒーを提供するだけではなく、コーヒーとともに心安らぐ体験を提供することなのだと言うことができます。

 現在のスターバックスでの体験を改めて思い返してみても、いわゆるコーヒースタンドとは異なる点が多く、サードプレイスというブランドコンセプトに基づいて今も運営されていることがよくわかります。