議論の順序を誤れば、変革は途中で立ち止まってしまう 
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 どんなに優れた企業でも、環境変化に適応できなければ衰退は免れない。変化のスピードが増す現代では、組織はあっという間に古び、適応不全に陥ってしまう。その危機感こそが、多くの企業が変革に挑んできた理由だ。本連載では『なぜあの会社は、時代の変化に強いのか? 生き残る企業が持っている「変革の遺伝子」』(大池拓著/クロスメディア・パブリッシング)の一部を抜粋、再編集。著者が支援した400社の企業・組織で成果が実証された「実践的な組織改革の考え方」を紹介する。

 企業が変わるための適切なゴールとは何か? 「ゴール」と「手段」を取り違えた失敗例を踏まえ、変革を実現するための「ストレッチ目標」について解説する。

「ゴール」と「手段」を混同しない

 変革活動をスタートする際、多くの場合に、「ゴール」と「手段」が混同して考えられがちです。この点について、少し考えてみたいと思います。

 昨今でよくあるのは「DXの誤解」です。DXは単なるデジタルツールの導入とは異なり、デジタル化によって企業の仕組み自体を変えていくこと(構造的変革)が本来の目的。しかし、多くの企業では「いかにデジタルツールを使うか」という議論になりがちです。

 デジタルツールの導入が目的化されてしまい、「デジタルを活用した結果として、どうなりたいか?」という議論がおざなりにされているのです。

 こうした順番を誤ってしまった例を挙げておきます。

 ある企業では、タレントマネジメントを強化し、人事起点で経営戦略の実行度を高めることを考えていました。実現に向けて大枠の構想を練り、使用するタレントマネジメントシステムのオプションまで検討し、システムの導入について社内の承認を得ていきました。

 問題はこの後の工程です。社内で承認を得た後、本来であれば、検討していた大枠の構想をより具体化していくことが求められます。タレントマネジメントを強化していくために、どのような人事制度が必要かを具体的に考え、経営戦略の実行度をどのように高められるのかまで検討します。だからこそ、そのなかでシステムをどのように使用したいのか、どのようなシステムを選択すべきかが見えてくるものです。