訪日観光客らでにぎわう成田空港の国際線到着ロビー
写真提供:共同通信社

 第2次トランプ政権発足後、相互関税など急な政策転換により世界が翻弄される中、日本は戦後の対米追従から脱却できるのか。マッキンゼー元日本支社長で経営コンサルタントの大前研一氏が著した『ゲームチェンジ』(大前研一著/プレジデント社)から内容の一部を抜粋・再編集。強い日本を取り戻すための道を提言する。

 急回復を見せるインバウンド需要は、日本の経済成長の希望となるか。各国で激化する、富裕層の移住取り込み競争の現状について解説する。

海外富裕層の移住を促進するための施策

ゲームチェンジ』(プレジデント社)

 図2-28上(次ページ)は、世界の富裕層の移住数の推移だ。2020年から2022年までのコロナ禍の3年間はひどく落ち込んだが、2023年以降は増加する一方である。

 日本のインバウンド政策の問題点は、このような海外の富裕層の動きを十分に取り込めていないことだ。中国やインドのような新興国の富裕層は若い人が多い。日本の場合、寿命が残り少なくなってから自分が富裕層になったことに気づき、はじめてどうやってこのお金を使おうかと考える。そして、税金を取られるのが嫌だからとシンガポールなどに移住する。そういう人は多いが、世界中の富裕層はむしろ安住の地を求めている。

 日本とは対照的に、UAE(アラブ首長国連邦)、アメリカ、シンガポール、カナダ、オーストラリア、イタリア、スイスなどは、海外の富裕層を取り込むのがうまい(次ページ 図2-28下)。アメリカの場合は、フロリダの島だ。非常にセキュリティ面が整備されており、富裕層も安心して生活を送ることができる。

 中国では、国内景気や不動産市況の悪化、国内政治への懸念などから、富裕層の流出が加速している。実際、富裕層の多くは、方法さえあれば国外に脱出したいと考えている。一番の金持ちと言われた人が、香港経由で逃げようとしたら、捕まってしまった。香港にお金を移し、その後世界に行ってから、お金を引き出すというやり方をして途中で見つかったのだ。このような人の移住先希望のナンバー1は、実は日本である。