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 第2次トランプ政権発足後、相互関税など急な政策転換により世界が翻弄される中、日本は戦後の対米追従から脱却できるのか。マッキンゼー元日本支社長で経営コンサルタントの大前研一氏が著した『ゲームチェンジ』(大前研一著/プレジデント社)から内容の一部を抜粋・再編集。強い日本を取り戻すための道を提言する。

 詰め込み型の教育は、いかに生産性向上を阻むか。AI時代にこそ必要とされる、抜本的な教育改革の必要性。

求められるのはAI時代に適した教育方法への転換

ゲームチェンジ』(プレジデント社)

 ここまで述べてきたように、いわゆる「失われた35年」最大の原因は、日本の教育制度にある。

 経済には、「第1の波(農業革命)」「第2の波(産業革命)」「第3の波(情報革命)」があり、現在は「第4の波(AI&スマホ革命)」の入り口に来ているが、日本は「第3の波」の後半で、ホワイトカラー層の効率化に失敗してしまった。それが日本の生産性が向上しない理由の一つだ。

 さらに大きいのは、「第2の波」である工業化社会であまりに成功しすぎてしまったことである。日本は当時、世界第2位の経済大国に成長したが、明治以来の旧態依然たる教育制度をずっと続けていた。工業化社会で勝つための中央集権的な教育が日本のスタイルだったのだ。

 そして、「第3の波」がすぎて「第4の波」に差し掛かっているにもかかわらず、日本は相変わらず、「第2の波」に対応した中央集権型の教育を行っている。これは世界でも珍しい。日本の教育を担う文部科学省は、中央教育審議会を通じて次の10年の指針を出し、これに対して教育指導要領を出す。つまり中央集権型の指導要領であり、それを教師は生徒たちに教える。こんなことを現在も行っているのは、全体主義国家以外にない。

 教育とは、時代の流れや技術革新に合わせて、常にアップデートしていかなければならないものだ。日本の場合、概ね10年に一度の頻度でアップデートが行われているが、今から10年前の2015年のことを思い出していただきたい。当時、生成AIなど、影も形もなかったはずだ。

 10年に一度のペースではアップデートが間に合わない。現在、高校生である16~18歳の人たちは20年後に36~38歳になって社会人として活躍しているはずだが、工業化社会の教育を受けて社会に送り出されるわけである。日本は工業社会の人材で、AI&スマホ革命の世界と競うことになる。