写真提供:日刊工業新聞/共同通信イメージズ

 デジタル化が進化し続ける中、独自の価値によって顧客とつながり、収益を上げていくマーケティング戦略が、業種を問わず多くの企業に求められている。こうした動きに呼応し、戦略の土台としてマーケティングフレームワークを導入する企業も増えているが、自社の競争力として活用しきれないケースも少なくない。本稿では『マーケティングフレームワークの功罪 成果を生む戦略策定のための独自プロセス獲得法』(菅恭一著/日経BP)から内容の一部を抜粋・再編集。フレームワークを成果に結びつけるために必要な思考法や実践プロセスについて、成功企業の事例を元に考える。

 ヤマハでは、300人を超える社員が受講する社内教育プログラム「YMU(Yamaha Marketing University)」を展開している。独自のマーケティング思考を社員に根づかせるこの取り組みには、どのような狙いがあるのか。

草の根的な勉強会から社内の教育インフラへ
ヤマハ株式会社「Yamaha Marketing University」

 ヤマハ株式会社(以下、ヤマハ)は、138年の歴史をもつ世界最大の総合楽器メーカーです。同社はコスト競争力のある良い商品を世界に普及させたいという方針から、世界各国の文化や顧客の違いに合わせて現地に権限を委譲し、各国最適化の方針で事業を拡大してきました。その後、総合楽器メーカーとしてカテゴリーを超えたブランドの強みをより生かしていこうという方針に基づき、2016年にはじめて事業部横断のマーケティング組織ができたそうです。

■ 各国最適化を進めてきたが故に生じた課題

 当時のヤマハはグローバルで高い競争力を誇り、すでにトップシェアを獲得していました。ただ、それでも専門メーカーとの局地戦では苦戦を強いられたり、各国で異なるブランドイメージが確立していたりするなど、各国最適化を進めてきたが故の課題にも直面していました。ブランドイメージに関していえば、日本では音楽教室、米国ではマーチングバンド、欧州ではクラシック、といったように、同じヤマハでも消費者が想起するブランドイメージには各国でばらつきが出てしまっていたのです。