出所:日刊工業新聞/共同通信イメージズ出所:日刊工業新聞/共同通信イメージズ

 デジタル技術の進化によって「マーケティング」というという概念そのものが拡張され、その手法も多様化している。そうした中、従来の学問領域とは異なる「マーケティングの新しい地図」を持つことの重要性を説くのが、明治大学ビジネススクール教授の鳥山正博氏だ。2025年2月に著書『常識をいったん捨てて、思考の自由度を上げる マーケティングの新しい地図』(KADOKAWA)を出版した鳥山氏に、現代のマーケティングを理解する上で必要な視点、「マーケティングの常識」を捨てることで成功を収めたSBI証券の事例について話を聞いた。

マーケターに必要な「新しい地図」とは何か

――著書『常識をいったん捨てて、思考の自由度を上げる マーケティングの新しい地図』では、現代におけるマーケティングの概念や事例について解説しています。今回の著書のタイトルには、どのような意味を込めたのでしょうか。

鳥山正博氏(以下敬称略) 今は極めて変化の激しい時代です。こうした時代においては、どれほど最新の知識を学んでもすぐに陳腐化してしまいます。そこで重要になるのが、「現在の常識」にとらわれず、自分の頭で考えることです。

 常識とは、特定の文化や社会において、一般的に受け入れられている知識、信念、価値観、行動規範を指します。自分の頭で考えるためには、こうした常識を「現在」「過去(昔)」といった視点から相対化して考えなければなりません。

 この考えをベースに思いついたのが「新しい地図」というキーワードです。現在起こっていること、過去に起こったこと、分野によって異なることを俯瞰して「全てマッピングできる地図」を頭の中に持つことが必要なのです。

 そして、マーケティングにおいては状況や局面、商品特性などによって「前提が異なり、常識が変わる」と理解する必要があります。だからこそ、新しい地図を念頭に置いて、その状況ごとに自分の頭の中でシミュレーションすることが大切です。

――著書では、常識を捨てることで成功を収めた事例として、SBI証券のケースを挙げています。2020年にSBI証券がオンライン証券市場で預かり資産トップに立った勝因はどこにあるのでしょうか。

鳥山 SBI証券の勝因については、「ネット証券で先行した」「買収によるエコシステムを形成した」「地銀との提携が功を奏した」「新しいテクノロジーやUI/UX系の投資を積極的に行った」といった考察を耳にしますが、そこには見落とされている観点があります。