
日本企業は営業改革を実行しなければ「失われた30年」の次の30年も競争力を失い続けてしまう――。そんな危機感を抱いているのが、元P&Gジャパン取締役営業本部長、元日本マクドナルド・ホールディングス取締役執行役員の宮下建治氏だ。宮下氏は2025年2月に出版した著書『営業戦略大全 世界レベルの利益体質をつくる科学的ノウハウ』(ダイヤモンド社)において、P&Gジャパンや日本マクドナルドで実践した営業改革について科学的な視点を交えて解説している。日本マクドナルドで実践した「お客さま起点」の営業戦略、これからの時代における営業組織の在り方について、同氏に話を聞いた。
パートナーの「絞り込み」に不可欠な視点
――著書『営業戦略大全 世界レベルの利益体質をつくる科学的ノウハウ』では、日本マクドナルドが行ったフランチャイズ店の大幅な絞り込みについて解説しています。そこにはどのような狙いがあったのでしょうか。
宮下建治氏(以下敬称略) 前提として、マクドナルドをはじめとする外食産業は「サービス業」であり、「お客さまに満足いただける店舗体験」を提供することで再来店を促す、というシンプルな方程式があります。そして、お客さまに満足いただくために必要なサービス品質を保つためには、「優秀な人材の育成」と「オペレーションの品質管理」、そして「成長のための投資」が必要不可欠です。こうしたポイントを踏まえて、フランチャイズを展開する必要があります。
グローバル展開する外食業界の企業に目を向けると、ほとんどがフランチャイズ形式を採っています。日本マクドナルドは私が入社した当時、フランチャイズ店は3割程度で、直営店が7割程度を占めていました。しかし、徐々にフランチャイズ中心の成長戦略へと転換を図りました。
フランチャイズを「広げる」段階では、まず市場への浸透に注力します。日本マクドナルドでは47都道府県への面展開を果たすまで、フランチャイズの数を増やすことで売上額を伸ばす方針でした。私がマクドナルドの営業本部長だった頃には、フランチャイズ比率が7割近くに達しています。
ここから成長を加速させる上では、マクドナルドが創業時から不変の企業理念として位置付けられてきた「QSC(クオリティ、サービス、クレンリネス)&V(バリュー)の維持・向上」を重視しました。具体的には、QSC&Vが高く、優秀な人材がそろっており、財務基盤がしっかりしていて成長意欲のあるフランチャイジーにより多くの店舗運営を任せる、という判断をしたわけです。つまり、これがフランチャイズのパートナーを「絞り込む」という段階でした。
マクドナルドにとってQSC&Vは単なる指標ではなく、企業理念そのものであり、存在意義といえます。これを犠牲にしてまで成長を目指すことはありません。こうした軸を明確化し、優秀なフランチャイジーと手を組むことで、同社の成長を加速できたと考えています。