
大丸松坂屋百貨店やパルコを傘下に持ち、小売業の枠を超えた「マルチサービスリテイラー」として事業ポートフォリオの変革に取り組んでいるJ.フロントリテイリング。同社は、この事業再構築と並行して、ガバナンス改革を行い、サクセッションプラン(後継者育成計画)や経営人財の育成にも力を入れている。指名委員会等設置会社に移行した同社の、社長選任における新たな仕組みや経営人財の戦略的育成方法について、同社顧問の山本良一氏が語った。
長期計画を「実行する人財の担保」が重要
私がJ.フロントリテイリング(以下、Jフロント)の代表取締役社長を務めていた10年ほど前のことです。ある投資家に会社の長期ビジョンを伝えたところ、「失礼ですが、この計画を実施する時に、山本さんはもういませんよね」と言われました。
「投資家としては、ビジョンだけでなく10年、20年先の実行を担保する経営人財の継続性についても示してもらわないと、投資できませんよ」との指摘をいただいたわけです。この言葉が、非常に強く私の心に残っています。
以来、私は優れた戦略を生み出すことと、実行する人財を担保することを経営の両輪として取り組んできました。
経営の取り組みとしては、私は大丸、大丸松坂屋の社長時代にも、現場の効率化、コストの削減など、さまざまに改革を進めました。しかし、これまでの延長線では、なかなか新たな成長を実現することは難しいと感じていました。
環境の変化が激しい中で生き残るには、過去の延長線上にない「非連続な成長」が必要な状況でした。
そうした中、私は2013年にJフロントの社長になりましたが、10年前に大丸の社長になった時と、取締役会が全く変わっていないことに気付きました。
そこで、ガバナンス改革を行い、取締役会を徹底的に戦略について論議できる場に変えようと考えました。ガバナンス改革をチャンスとして捉え、大きなフレームで会社を変え、持続的な成長を実現していこうと考えたのです(下図)。
また、当時は、企業のESGへの取り組み度合いが評価されはじめた時期でもあり、世界中で、企業が社会課題に取り組むのは当然と見られるようになってきたことも、改革を後押ししました。