写真提供:共同通信社

 稲盛和夫氏が日本航空(JAL)再建を引き受け、無報酬で会長に就任したのは78歳のとき。東大はじめ一流大学出身の幹部たちが経営方針を決めていたJALの“お役所体質”にメスを入れ、徹底した意識改革を進めていく。わずか2年8カ月でJALは再上場を果たし、JAL社員を「意識の高さにおいて世界一にする」と語った稲盛氏の経営手腕はあらためて注目を集めた。本連載では、『一生学べる仕事力大全』(致知出版社)に掲載されたインタビュー「利他の心こそ繁栄への道」から内容の一部を抜粋・再編集し、稲盛氏が自身の人生と経営について語った言葉を紹介する。

 今回は「3つの大義がある」と判断して引き受けたJAL再建を振り返る。

本稿は「Japan Innovation Review」が過去に掲載した人気記事の再配信です。(初出:2024年5月1日)※内容は掲載当時のもの

JAL再建の鍵は意識改革

――「動機善なりや、私心なかりしか」という意味では、JALの再建もよく引き受けられましたね。

 平成22年にJALが倒産した時、「会社更生法に基づく会社再建のために会長を引き受けてくれ」と政府から頼まれました。私自身、航空業界のことは何も知りませんでしたし、多くの方から「あんな巨大な組織の立て直しは絶対に無理だ」「晩節を汚すことになる」と言われました。

 しかし、倒産したJALを救うことには、3つの大義があることに思い至ったんです。

――3つの大義ですか。

 1つは、残された3万2000人の従業員の雇用を守れる。2つ目は、日本経済全体への悪影響を食い止めることができる。そして3つ目は、ANAとの正しい競争環境を維持して、国民の利便性を図る。

 何度も申し上げているとおり、世のため人のために尽くすことが人間として大切だと思っていますので、勝算があるわけではないけれども、必死に頑張ってみようと思ってお引き受けしました。結果として、2000億円に迫る利益を出す会社へと生まれ変わり、再上場を果たすことができたわけです。