出所:共同通信社出所:共同通信社

 日本経済が停滞する今、現状を打開するために日本企業にはどのような取り組みが必要なのだろうか。変革の鍵として「世界の経済発展をリードしている人たちが実践する演繹(えんえき)思考を採り入れるべき」と話すのは、シリコンバレーに本拠を置くNSVウルフ・キャピタル共同代表パートナーの校條浩(めんじょう・ひろし)氏だ。前編に続き、2024年10月、書籍『演繹革命 日本企業を根底から変えるシリコンバレー式思考法』(左右社)を出版した同氏に、演繹思考の考え方の特徴や、演繹思考を組織に根付かせるために有効なアプローチについて聞いた。(後編/全2回)

米国型VCと日本型VCの「決定的な違い」

──前編では、校條さんが経験した「イノベーションのジレンマ」や、その克服に有効な考え方「演繹思考」について聞きました。著書『演繹革命 日本企業を根底から変えるシリコンバレー式思考法』では、演繹思考を理解する上でのヒントとして「米国型VC」と「日本型VC」を比較していますが、具体的にどのような違いがあるのでしょうか。

校條浩氏(以下敬称略) 前提として、米国型VCと日本型VCとでは誕生の経緯が大きく異なります。それぞれの環境に合わせて取り組んできた結果、違いが生まれているのですから、「米国が素晴らしい」「日本は良くない」という話ではありません。その点を踏まえた上で、両者の違いを具体的にお話します。

 シリコンバレーのある米国の西海岸は、東部の都市よりも遅れて経済が発展しました。そうした歴史的背景から、東部では成功できなかった人や、既存の仕組みの中で成果を上げられなかった人たちが西海岸に流れ、「スタートアップ企業を通して、世界を変えるような新しい事業や産業を創造したい」という動機を持ち、集まって来ました。

 そのため、米国のVCは「GAFAのように、世界の市場を変えるような革新的な企業をつくる」ということに重きが置かれています。

 例えば、米国の大物VCの一人、ビノー・コスラ氏は「世の中にインパクトを与えるような事業を創造するには、失敗はつきものだ」と語っています。失敗を奨励しているのではなく、「失敗を想定せずに大きなことは成し得ない」という意味です。

 このように、米国のVCは投資先企業の失敗を想定の範囲内に収めるため、複数のスタートアップに投資をすることでリスク分散をしています。もちろん、投資先企業が創出する利益が成功のバロメーターになります。しかし、短期的な利益よりも「長期的に世界へインパクトを与える1社」の誕生を優先しているのです。