リスクマネジメントの管理方法:Indexationの管理
ここまで電力市場/燃料市場の不確実性がもたらす様々なリスクについて述べてきましたが、ここでは各事業者がこうしたリスクに包括的に対応し、その創意工夫により巧拙に差が出るものとして昨今急速に関心を高めているIndexationの管理について深掘りをしていきたいと思います。
ここで言うIndexationの管理とは、電力事業において電力販売・電力調達がそれぞれどの指標(Index)にどの程度連動していて、それをネットした場合にエンティティ全体でどのようなエクスポージャーになっているのかを把握していく、ということです。
例えば、調達側は50%がJEPX、50%がLNG価格に連動し、販売側が20%JEPX、40%LNG、40%石炭に連動していたとすると、コスト側に30%分のJEPXと10%分のLNG、収益側に40%分の石炭のエクスポージャーが残ることとなります。このような場合にJEPXが高騰すると損失側に振れ、逆に下落すると利益が大きくなるということです。
このポジションを相殺するようなヘッジ手段を考えていくのか、このポジションを利用して投機的に収益を狙いにいくのか、は各社のリスク/トレーディングポリシーに因るところですが、いずれにしてもこのポジションこそが電力事業のフィナンシャルなリスクそのものであり、一般的に損益の多寡を決める最大のドライバーとなります。
その意味で電力事業とは多分に金融的なものです。Indexのボラティリティが高まる昨今の情勢の中で安定的な事業運営を目指すためには、金融的なセンスと手段を身につけることが必須になってきているのです。
Indexationの管理は、概念としては上述のように極めてシンプルながら、実務的には相応に複雑でボリュームのある計数管理となります。
上述では例として単に“LNG価格”と書きましたが、LNG価格はさらに石油価格等のその他の資源価格に連動している側面を持ち、またそれぞれの指標がいつの価格に連動しているのかも考える必要があります。
こうした整理を通じて初めて、足元~将来の資源価格や市場価格の変動が自社の収益にどのような影響をもたらすのかを解像度高く見通せるようになります。
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■第6回 大手電力7社が燃料調達の算定式を見直し 地政学リスクが促したリスクマネジメントの構造変化とIndexationの管理とは(本稿)
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