一方で、そもそも、従業員の報酬水準の最大化は必ずしも企業の目的ではないことも確かだ。資本主義社会において、企業経営者が株主への利益の配分を意識して経営を行うことや、経営者自身の報酬の最大化を意識して経営を行うことを妨げることはできない。こうした考え方に従えば、従業員の報酬はあくまで労働市場の均衡価格で決まるわけであるから、利益が増えているからといって必ずしも従業員への配分が増えるわけではないとも考えることができる。
そして、労働者の賃金が労働市場の需給から定まり、それを差し引いた余剰が企業側の取り分になるといったようなメカニズムで労働者の報酬水準や企業の利潤が決定されるからこそ、これからの人口減少局面においては、労働市場からの圧力が企業利益を縮小させる方向に働くと予想することができるのである。
人口調整局面において、企業は安い労働力を活用して多額の資金の余剰を蓄えてきた。そしてその裏で、政府は企業に代わって度重なる財政出動を余儀なくされ、その結果として巨額の負債を抱えてきた。しかし、労働市場がひっ迫して賃金上昇圧力が強まっていくことになれば、今後の資金循環の構造はこれまでとは異なるものになる可能性がある。人口減少局面では、企業がこれまで蓄えてきた利益を吐き出していく局面が訪れると予想することができるのである。
予想5 資本による代替が進展
持続的な賃金上昇は、企業にとって事業を営む上でのコストが断続的に上昇していくことを意味する。このような危機的な状況に対して、企業側はどのように対応するだろうか。
賃金上昇に対抗する手段として企業が取りうる選択肢の中で最も有効な対策は、資本活用による省人化である。労働力の単価が相対的に高価になっていったとき、これまでのように大量の労働力を投入して事業を継続すれば、人件費コストが膨張することで企業の利益の確保は困難になる。そうなれば、これからの企業は労働力を利用することを極力控え、資本の活用に活路を見出すようになるだろう。