すべて自分の責任と捉えた母親の姿を見て育つ
――こうして振り返ると、お母様のひと言は実に大きな転機になりましたね。
正垣 おふくろじゃなかったら、火事の後にやれとか八百屋さんが自分たちのためにあるんだとか、そんなことは言わなかったと思いますし、おふくろが言うから受け入れられた。他の人に言われても「何を言うんだ」って聞く耳を持たなかったでしょう。
うちの親父は外で愛人をつくってその女性との間に次々と子供をもうけていましたが、おふくろはその子供たちも引き取って、一所懸命に愛情を注いで、自分が産んだ子供と同じようにすごく大事に育てたんです。
――ああ、分け隔てなく。容易にできることではありません。
正垣 おふくろは、親父が外で愛人をつくってくるのは自分が悪いんだと思っていました。「お父さんが悪いわけじゃない。私がいけないから、相手の女性にも申し訳ない」なんていうことを本気で話す人でした。普通は人のせいにするでしょう。この男は信じられない、いい加減だって。おふくろは違う。自分が至らないから、お父さんを苦労させているんだと。
そういう家庭で育ってきましたから、おふくろの言葉には重みがありました。あんな場所でやったら絶対に潰れますよね。だけど、おふくろの助言があって続けたでしょう。それがいまでは国内1089店舗、海外428店舗、合わせて1517店舗になっているんですから、人生って面白いですよ。
「自分の目の前に起こる出来事はよいことも悪いことも全部、自分のためにある」
これは子供の頃からおふくろに繰り返し言われていた言葉です。本当にその通りだなと、いましみじみと感じています。
正垣 泰彦(しょうがき・やすひこ)
昭和21年兵庫県生まれ。42年東京理科大学4年次に、レストラン「サイゼリヤ」を千葉県市川市に開業。43年同大学卒業後、イタリア料理店として再オープン。48年マリアーヌ商会(現・サイゼリヤ)を設立、社長就任。平成12年東証一部上場を果たす。21年より現職。27年グループ年間来客数2億人を突破。令和元年7月国内外1,500店舗を達成。同年11月旭日中綬章受章。
<連載ラインアップ>
■第1回 サイゼリヤの人気ナンバーワン商品「ミラノ風ドリア」は、なぜ1000回以上も改良を重ね続けているのか?
■第2回 1日の来客数を40倍に跳ね上げた驚きの価格設定、サイゼリヤの破壊的な安さを生んだ“全部逆”の発想とは?(本稿)
■第3回 テレビ番組の反響で倒産危機に…なぜサイゼリヤは「宣伝なし」「直営店」にこだわるのか?(1月21日公開)
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