ウォークマンを使う人が増えると、イヤホンやケースなど関連するアクセサリーの需要も増えた。ユーザーが増えると、ウォークマンを欲しいと思う群集心理が高まる。群集心理を刺激することで、ウォークマンはヒット商品となり、ブームが起きたのだ。
そのために必要なのは、新しい発想を実現しようとする企業家のマインド(心)だろう。オーストリアの著名な経済学者、ヨーゼフ・シュンペーターは、企業家の重要な役割は、新しい結合を生み出すことだと説いた。
結合の形態をシュンペーターは5つにまとめた。
①新しいものを作る(プロダクト・イノベーション)、②新しい生産方法を導入する(プロセス・イノベーション)、③新しい販売先を生み出す(マーケティング・イノベーション)、④新しい素材や半製品(部品など)を手に入れる(マテリアル・イノベーション)、⑤新しい組織の実現(オーガニゼーショナル・イノベーション、既存の組織を打破して独占や寡占に対応する組織を作る)の5つだ。
企業がイノベーションを遂行し、新しいモノやサービスのヒット、ブームを目指すために、行動経済学の群集心理などの知見は役に立つと考えられる。
需要をつかむためにコンセプトを明確化
――自社の存在意義を理解して世界有数のゲーム会社に成長
ブームを生み出すために大切な方策の一つは、人間の欲求を深掘りして考えることだろう。欲求は多種多様だ。余暇を充実させたい、おいしいものを食べたい、かっこいい洋服を着たい、高級自動車や時計を買って自慢したいなど、際限がない。止(とど)まることを知らない人間の欲求をつかむ企業の成長によって、資本主義経済は成長しているともいえる。
潜在的な需要をつかむことは、消費者が好き(欲しい)と思うモノやコトを生み出すことに言い換えることができる。そのために、経営者は事業のコンセプトを明確化する。
わが国のある企業は、元々、花札やトランプなどのカードゲームを製造していた。高度経済成長期に入って家庭にテレビが普及すると、カードゲームの売れ行きは伸び悩んだ。そんなある日、当時の経営トップは、従業員にこれまでにはない新しい玩具のアイディアを募った。この時点で経営者は、自社の存在意義は「面白いことを増やすこと」(遊びの創造)と明確に理解していたようだ。
同社は、経済成長によって週末の百貨店などを訪れる家族連れが多いことに着目した。そのときに流行っていたのが、ゲームセンター(ゲーセン)向けの大型のゲーム機(アーケードゲーム)だった。新しい遊びに、人々は魅了されていた。